劣後債とは?
劣後債とは「劣後特約付社債」の略称であり、企業が発行する社債の一種です。英語では“subordinated bond”といいます。
社債は企業が“破綻”しないかぎり、満期までは一定の利子がつき、満期を迎えると、元本が払い戻しされますが、この破綻したときに弁済順位が低いのが「劣後債」です。その分、同条件の社債と比較すると、高い利回りを享受できます。
また、劣後債には償還期限の付いた「期限付き劣後債」と償還期限のない「永久劣後債」の2種類があります。
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劣後債投資 どのような人に向いているか?
劣後債の発行はドル建てが多く、ドル建ての運用を考えている投資家に向いています。永久劣後債は償還期限がないので、余裕資金での運用になります。劣後リスク(弁済順位が劣後するリスク)、繰上償還延期リスク、利息、配当繰延(停止)リスクなど劣後債特有のリスクを内包しているので、商品内容を十分に理解できることが大切です。
劣後債 購入者のメリット、リターン
劣後債は、普通の社債よりも利率が高く設定されます。特に、期限付劣後債は、発行体が破綻しない限り、普通の社債と同じく、満期までは一定の利子がつき、満期を迎えると、元本が払い戻しされます。
劣後債 購入者のデメリット、リスク
企業側から見ると、負債より資本に近い位置付けの劣後債は、企業に何かあったときの返済順位が低くなっています。
また、株式や債券などと違い取引市場が小さいため、価格のぶれが大きくなったり、売買の自由度が低かったりすることについては、注意が必要です。
劣後リスク(弁済順位が劣後するリスク)、繰上償還延期リスク、利息・配当繰延(停止)リスクなど劣後債特有のリスクを内包しています。これらの点について十分チェックする必要があります。
劣後債の購入方法
劣後債は主に機関投資家向けに販売されるため、これまで、個人投資家が購入する機会はあまりありませんでした。一方で一部の富裕層などは購入しているケースもあります。
劣後債 格付けの読み方
一般的に同じ発行体の普通社債(シニア債)より数ノッチ低くなります(ノッチとは、格付けの際に使用される指標「A++」「B−」の「+」や「−」のことを指します)。
劣後債の発行体
劣後債を発行している企業を確認すると、事業法人の発行もありますが、○○銀行や△△生命保険など金融機関の名前が目立ちます。劣後債は、金融機関が株式価値を落とさず自己資本を高め、規制をクリアするための手段となるためです。
劣後債の例
①ソフトバンク
初回コールまで5年の永久劣後債
(1)1年目~5年目の利払日まで 年6.00%
(2)5年目~20年目の利払日まで 5 年米ドルスワップレート+4.226%(変動・30/360・税引前)
(3)20年目以降 5 年米ドルスワップレート+4.976%(変動・30/360・税引前)
②第一生命
初回コールまで10年の永久劣後債
(1)1年目~10年目の利払日まで 年4.00%
(2)10年目以降 3 ヶ月米ドルLibor + 3.660% (実日数/360・税引前)
劣後債の発行予定を知るには?
主に機関投資家向けの発行が多い為、個人では簡単に把握するのは難しい。日本証券業協会などのHPや、証券会社など金融機関からの開示を利用することで把握します。
劣後債券と他の債券の違い
企業が倒産するなどの「劣後事由」が発生した場合の残余資産の分配において、優先債務の全てが弁済されるまで当該債券に対する分配が行われない仕組みとなっています。その分、普通の社債よりも利率は高く設定されます。
①担保付債券と劣後債券
担保付債券とは、元利金の支払いを保証するために物的な担保が設定されている債券のことです。電力債やNTT債などが該当します。その点、劣後債と比べて低リスクな債券だといえます。また、元利金の支払い優先が保証されている債券も担保付債券と取り扱われます。
②普通債券と劣後債券
劣後債と普通の社債との一番の違いは、「弁済順位」が違うことです。劣後債は、普通の社債と比べて、弁済順位が低くなっています。
③優先出資証券、優先株と劣後債券
普通株と比較すると議決権がない代わりに優先的に配当を受けられる優先出資証券、優先株ですが、これらと比較すると劣後債の方が、残余財産の支払い順位は高く、価格変動性は低くなっています。
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④普通株と劣後債券
普通株と比較すると、劣後債の方が、残余財産の支払い順位は高く、価格変動性は低くなっています。
劣後債は途中売却できるのか?
劣後債の途中売却は可能ですが、償還日より前に換金する場合には市場価格での売却となりますので、売却損が生じる場合があります。市場環境の変化により流動性(換金性)が著しく低くなった場合、売却することができない可能性があります。
劣後債の期限前償還について
劣後債には期限前償還条項が付されているものがあり、発行者が任意に決定した時期に早期償還される場合があります。市場で予想された期日で期限前償還がされなかった場合は、劣後債の価格が大きく下落することがあります。
市場慣行として、初回のコール日(期限前償還が可能な最初の日)に償還することが一般的です。初回のコール日に償還しない場合、次回以降の起債の時に十分な資金調達が難しくなるリスクがあるためです。
初回のコール日に期限前償還を行わない理由として考えられるのは、発行体の財務状況の悪化や市中金利の著しい上昇などです。
劣後債 発行体のメリット
劣後債の発行は、金融機関が株式価値を落とさず自己資本を高め、規制をクリアするための手段となります。
金融機関は安全性を担保するため、自己資本の比率を一定水準以上に保つように規制されています。 その「自己資本比率」や「流動性比率」等に関する国際統一基準を「バーゼル合意」といいます。
2008年の金融危機発生時、リーマン・ブラザーズは破綻時に自己資本の30倍ものお金を投資に回していたとも言われています。これを受け、金融機関に安全性を求める声が大きくなったことを反映し、2010年により厳しいルールを定めた「バーゼルⅢ」が成立しました。
図表4は銀行のバランスシートのイメージを示したものです。劣後債(ハイブリッド証券)は株式に近い性格を持つことから、 自己資本にカウントすることが認められています。 ○○銀行や△△生命保険といった多くの金融機関がこのようなハイブリッド証券を活用しています。
劣後債 発行体のデメリット
通常の債券と比較すると、金利負担が高くなります。また、広義の自己資本としか認められません。
劣後債発行による株価への影響
一般的に、株式での増資を行うと株式の希薄化が生じるので、発表されると、通常、株価は下がります。劣後債発行による株価への影響は、一定の傾向は見られません。発行企業の個別の理由で株価が上がる場合もありますが、下がる場合もあります。
劣後債 税法上の取り扱い
① 個人
個人に対する外貨建て劣後債(一部を除く)の課税は、原則として以下によります。
・ 外貨建て劣後債の利子(為替損益がある場合は為替損益を含みます)については、利子所得として申告分離課税の対象となります。外国源泉税が課されている場合は、外国源泉税を控除した後の金額に対して国内で源泉徴収されます。この場合には、確定申告により外国税額控除の適用を受けることができます。
・ 外貨建て劣後債の譲渡益及び償還益(それぞれ為替損益がある場合は為替損益を含みます)は、上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象となります。
・ 外貨建て劣後債の利子、譲渡損益及び償還損益は、上場株式等の利子、配当及び譲渡損益等との損益通算が可能です。また、確定申告により譲渡損失の繰越控除の適用を受けることができます。
・ 割引債の償還益は、償還時に源泉徴収されることがあります。
② 法人
法人に対する外貨建て劣後債の課税は、原則として以下によります。
・ 外貨建て劣後債の利子、譲渡益、償還益(それぞれ為替損益がある場合は為替損益を含みます)については、法人税に係る所得の計算上、益金の額に算入されます。なお、一般社団法人又は一般財団法人など一定の法人の場合は、割引債の償還益は、償還時に源泉徴収が行われます。
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・ 国外で発行される外貨建て劣後債(一部を除く)の利子に現地源泉税が課税された場合には、外国源泉税を控除した後の金額に対して国内で源泉徴収され、申告により外国税額控除の適用を受けることができます。
※ 参考/楽天証券
劣後債を理解するための基礎用語集(あいうえうお順)
永久債
償還期日が無く、発行体が存続する限り利息のみが払われ続ける債券です。
金融負債
企業会計においては劣後債などの社債は金融負債に定義されます。
金利
利子又は利息ともいいます。発行体の信用度やその時の市場の金利水準などで決定します。同じ発行体では、劣後債の方が、普通の債券より高い金利が設定されます。
減価償却
満期保有目的債券は償却原価法によって会計処理を行います。
コール
ファーストコール日とは 発行時に決められた、期限前に繰上償還可能な日のうち、最も早い日付のことです。通常、期限前償還条件付きの債券は、ファーストコールで償還されることが市場慣行となっています。
自己資本比率
自己資本とは、株主の出資金や内部留保(余剰金)などです。自己資本比率は自己資本÷総資本(自己資本+他人資本)で求められます。金融機関は安全性を担保するため、自己資本の比率を一定水準以上に保つように規制されています。劣後債は自己資本としてカウントすることができることから活用されています。
債務
劣後債とは劣後特約付社債の略称であり、発行体の倒産・清算時において、債務弁済順位の面で、発行体の優先債務等と比して劣後する特約が付いた債券であります。
償還
債券において額面金額を受け取ること。満期償還と途中償還があります。
社債
社債とは企業が資金調達を目的として発行する債券です。
新型劣後債
新型劣後債はCoCo債「Contingent Convertible Bonds」と呼ばれています。邦訳すると「偶発転換社債」です。発行体である金融機関の自己資本比率が一定水準を下回った場合や発行体が実質的に破綻状態にあると認定された場合、元本の一部または全部が削減されたり、強制的に株式に転換される転換社債のことをいいます。一般的に、普通社債より、リスクが高いが、その分、高い利回りが付きます。
損失吸収条項
金融機関などが実質破綻状態と認定された場合、損失の吸収(株式や債券の元本削減や債務の株式転換)が発生するリスクがあります。損失吸収の条件を整理した条項を、実質破綻時“損失吸収条項”と呼びます。
バーゼルⅢ
金融機関は安全性を担保するため、自己資本の比率を一定水準以上に保つように規制されています。その「自己資本比率」や「流動性比率」等に関する国際統一基準を「バーゼル合意」といいます。2008年の金融危機発生時、リーマン・ブラザーズは破綻時に自己資本の30倍ものお金を投資に回していたとも言われています。これを受け、金融機関に安全性を求める声が大きくなったことを反映し、2010年により厳しいルールを定めた「バーゼルⅢ」が成立しました。
ハイブリッド証券
資本と負債の両方の特徴を併せ持つ証券をハイブリッド証券といいます。劣後債、永久債、優先出資証券、優先株などがあります。発行体の信用状況により利払い停止されるリスクや、破綻した場合の弁済順位が普通社債より劣後するなどの理由から、利回りは普通社債より高く設定されています。
発行体
資金調達をする為に債券を発行する企業のこと。劣後債の発行体はその多くが金融機関です。
BIS規制
銀行経営の健全性を維持するための国際ルールです。
ベイルイン
破綻危機時の救済方法です。 破綻危機にある金融機関に対して債権者が債務の削減・減免などの負担することで救済する方法です。
メザニンファイナンス
社債発行や銀行借入などのデットファイナンスと株式発行といったエクイティファイナンスの中間に位置付けられる資金調達の手段をいう。具体的には劣後債、劣後ローン、永久債、優先出資証券、優先株式などが該当します。
優先社債(シニア債)
企業が社債を発行する場合、通常、無担保で発行される債券を優先社債(シニア債)と言います。シニア債に比べ、発行体の倒産・清算時において、債務弁済順位の低い債券を劣後債と言います。
余剰資産
企業が倒産するなどの「劣後事由」が発生した場合の残余資産の分配において、優先債務の全てが弁済されるまで当該債券に対する分配が行われない仕組みとなっています。
利率
債券の額面金額に対し毎年受け取る利子の割合のこと。表面利率ともいいます。 債券の利率は、発行する時の金利水準や発行体の信用度などに応じて決まります。
利回り
投資金額に対する利子も含めた年単位の収益の割合のこと。
劣後事由
破産や会社更生手続きまたは民事再生手続きの開始など、一定の劣後事由が発生した場合に、他の一般債務(預金や社債などの上位債権)に比べて元利金の弁済順位が後順位となります。
劣後社債(ジュニア債)
劣後債とは、企業が発行する社債の一種で、デフォルト時の元利金の支払い順位が一般債務よりも低い債券のことです。
劣後特約
破産・会社更生・民事再生など劣後自由が発生した場合、他の債権の返済に劣後して(他の返済が終わってから)返済を受けることになります。
2019年第2四半期/劣後債の最新マーケット情報
最新の劣後債のマーケット状況を語るには、米国の金利動向をチェックする必要があります。下記チャートは米国債10年の5年間のチャートです。2016年7月に1.3%台を付け、ここをボトムに米国FRB(連邦準備理事会)の金融政策の正常化に伴い金利は徐々に上昇していきます。2018年11月に3.2%台で一旦上昇は落ち着き、その後は、トランプ大統領とFRBの駆け引きなど外部の要因なども影響し、方向性を模索していきました。
FRBは2019年に入り利下げ休止に転換し、米中貿易摩擦の影響、米国経済に見通しにも考慮し始め、特に5月以降、金融政策のスタンスを明確に利下げに変更しました。その結果、金利は2019年8月に1.5%まで急低下しました。
このような環境の中、劣後債のマーケットも大きく変動しています。特に格付けの高い銘柄、A格付け以上の劣後債は特に債券単価の上昇は顕著で、現状ではアンダー(単価100以下)で購入するのは難しい状況になっています。
このような環境では、発行体格付けのBBBやBB等の銘柄の中で条件の優位なものを丁寧に探していくことも重要になってきます。選択肢として、新型劣後債のCoCo債(偶発転換社債)も併せて検討してもよいかもしれません。
今後、金利の動向次第では、債券単価も大きく上下していく可能性もあり、魅力的な水準での投資のタイミングを定期的に模索していくことが大切です。