弁済順位が債券に劣後し、普通株より優先する有価証券
幾田 非常に基本的な質問ですが、まず初めに、優先証券とは何でしょうか? 伝統的な確定利付債券との違いを教えてください。
バイヤー 優先証券を一般化しようとするなら、弁済順位において債券に劣後し、普通株より優先する有価証券とでも言いましょうか。優先証券とは、発行体が投資家に販売する有価証券の総称です。それらは劣後債かもしれませんし、トラスト型優先証券かもしれません。もしくは、コンティンジェント・キャピタル債(CoCo債)や、その他の資本を増強する有価証券の場合もあります。
こういった金融商品に共通していることの一つは、伝統的な社債(シニア債)よりも弁済順位が劣後しており、普通株式よりは優先されているため、伝統的な社債よりも高い利率(劣後プレミアム)がつけられていることです。
なぜ企業が、相対的に高い劣後プレミアムを払ってまで弁済順位において劣後する優先証券を発行するのかということですが、これには二つの理由があります。
一つは、これらの有価証券で調達されたお金は当局から定められた規制上の自己資本(Tier 1ないしはTier2資本)として組み入れることが可能なこと。世界中の銀行や保険会社といった金融機関にとって、これは重要な特徴です。
もう一つは、優先証券が普通株に代わる割安な資本調達手段であることです。優先証券で集められたお金は債券に劣後するため、優先証券での資本調達が多いほど、よりシニアな債券の信用格付を補強できるのです。つまり、優先証券は、特定の型のある金融商品ではなく、様々な種類、異なる性質を持つ複雑な金融商品と言えるでしょう。また、優先証券の発行体は銀行、保険、証券会社等の金融セクターに集中していることも特徴的です。
優先証券は資金調達ではなく「資本調達」手段の一つ
幾田 なるほど。一つ目の違いは、割安な規制上の資本であること、二つ目は、その債券と株式の中間的な商品性からシニア債の信用を補完する、ということですね。まとめると、割安な財源、もしくは資金調達手段というところでしょうか。
バイヤー 資金調達ではなく、資本調達です。資本というのは、銀行にとっては魔法のような言葉ですね。資金調達は預金であったり、借金であったり、流動性を確保する上でより割安な調達手段は無数にあります。
資本というのは、通常は普通株、内部留保、そしてこうした優先証券によって調達された資金を指します。優先証券はその性格上、発行されたとしても、普通株の価値の希薄化を招きませんし、株主の議決権にも影響を与えません。なのに、調達された資金は発行体に取っての負債ではなく、資本に分類できるので、非常に使い勝手が良いのです。