激戦の賃貸住宅市場で、「建築家のデザイン」を取り入れたオンリーワンの物件で知られる神奈川の注文住宅大手タツミプランニングと、日本最大級の建築家ネットワークを作り上げたアーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)。両社がタッグを組んで空室リスクの低減を狙う、「建築家と建てる賃貸物件」の秘密を明らかにする本企画。第2回目は、ASJ事業本部の竹内宗則氏とタツミプランニング営業本部の藤郷紳也氏に、「建築家と建てる賃貸物件」の特徴等を伺った。

本来、競争力が年々衰えていく賃貸物件だが・・・

――建築家が建てる賃貸住宅は、そんなに一般の住宅と異なるものなのですか?

 

竹内 まったく異なりますね(笑)。なぜなら、スタートからして違うんです。実は私の前職は大手ハウスメーカーなのですが、ハウスメーカーはある程度、規格が決まっています。膨大な数のお客さんの期待に応えるために、初めから10人いたら9人は好むような家作りを徹底しているんです。でも、建築家と一緒に建てる家は、10人いたら3人ぐらいしか「いいね!」って言ってくれない物件だったりします。賃貸住宅を建てたいというお客さんに対して、建築家がゼロからプランを練って、時にお客さんの趣味などを取り込みながら、オンリーワンの物件を造るからそうなるんです。

 

古民家をリノベーションした物件
古民家を店舗にリノベーションした物件(茅ヶ崎)

 

――「3人」しか評価してくれない物件より、「9人」に好まれる物件の方が、入居希望者のすそ野が広そうですが……。

 

細長い敷地を活かした集合住宅(厚木)
細長い敷地を活かした集合住宅(厚木)

藤郷 そこが収益物件開発の盲点だと思います。賃貸住宅ならば満室経営を目指して、なるべく誰にでも好まれる物件をつくろうとするじゃないですか?でも、その分、物件の競争力は年々衰えていくものなのです。

 

なぜかというと、そのときの最新のセキュリティシステムが備わった物件でも、7、8年もすれば古いシステムに成り下がってしまいます。そのときに、すぐそばに最新のシステムが導入された賃貸住宅ができて、家賃は2000~3000円高い程度であれば、そちらに移りたいと考える入居者は多いでしょう。そこで、入居者が出て行ったら、その後は家賃を引き下げることでしか、客付ができなくなります。

 

「強気な」家賃設定も可能に

ハウスメーカーとは異なるデザインの個性
ハウスメーカーとは異なる個性的なデザイン

竹内 前職の経験に照らし合わせれば、ハウスメーカーが手掛けた賃貸住宅はだいたい4年で入居者が入れ変わります。1回目の更新は大丈夫でも、2回目の更新では別の賃貸住宅に押されて、下手をすると家賃の引き下げ圧力が高まる。おのずと、建築コストの回収計画にも狂いが生じてきます。ところが、建築家と作る賃貸住宅はそうなりません。なぜなら、個性的だから(笑)。

 

コアなファンを得ることで空室リスクが解消
「ファン」を得ることで空室リスクが解消

その個性を受け入れてくれる入居者は、“ファン”になって長いこと住み続けてくれるんです。タツミプランニングさんと開発した物件はまだ日が浅いものばかりですけど、ASJが他の建設会社さんと開発した賃貸物件を見ると、10年以上住み続けている方もザラです。私が驚いた例では、30年以上住み続けている入居者もいます。

 

――同じ賃貸住宅に30年住むというのは確かに聞いたことがありません。つまり、個性的な住宅があるゆえに、コアなファンが長く住みついて空室リスクが解消されるため、投資回収も容易ということなのでしょうか?

 

竹内 付け加えると、周辺相場よりも高い家賃設定が可能です。だいたい、建築家と一緒につくった賃貸住宅は同じ広さの周辺物件に対して、2割ほど高い家賃設定で運営されています。強気な家賃設定が可能なのは、“マス”をターゲットにしていないから。たとえば、ロードバイク好きのために、玄関を広く取り、リビングの壁にはロードバイクを飾れるように突起物のついた物件があります。普通の入居者からしたら、そんな突起物は邪魔でしかありませんが、ロードバイク好きの方からしたら魅力的な設備になるんです。

 

間口の狭い敷地を逆に活かした個性的なメゾネット・タイプの物件
間口の狭い敷地を逆に活かした個性的なメゾネット・タイプの物件

 

だから、多少家賃が高くても、その物件に住みたいと思う。近年、賃貸住宅を探す際に、駅やエリアよりも、どういう物件か?という点を重視される方が非常に増えています。だから、ターゲットの限られた賃貸住宅を専門に扱う管理会社も出てきているんです。個性的な物件だから、客付けがうまくいかないなんてことは絶対ありません。

 

取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年5月23日に収録したものです。