2014年のオープンから満室が続く「ハナミズキ」(藤沢)

激戦の賃貸住宅市場で、「建築家のデザイン」を取り入れたオンリーワンの物件で知られる神奈川の注文住宅大手タツミプランニングと、日本最大級の建築家ネットワークを作り上げたアーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)。両社がタッグを組んで空室リスクの低減を狙う、「建築家と建てる賃貸物件」の秘密を明らかにする本企画。第3回目は、ASJ事業本部の竹内宗則氏に、不利な条件の中でも建築家デザインによって高収益の賃貸物件を実現することに成功した事例について伺った。

建築家に頼んでもコストは高くならない!?

――建築家と一緒に個性的な物件をつくることで、高い家賃設定でも長く住んで頂けるファンが獲得できるという点は理解できしました。しかし、もう1つ気になる点があります。建築家に頼むことで、コスト高に陥りはしないか?という点です。一般の方にとって建築家に相談をするのは非常にハードルの高いものですから。

 

竹内 その点は、まったく問題ありません。ハウスメーカーに依頼して賃貸住宅を建てる際の建築費を比べても、建築家と一緒につくっても同程度の建築費に抑えることが可能です。大手のハウスメーカーですと社内に数百人から千人以上の設計士を抱えていて、設計・施工の金額なので正確な数字は分かりませんが、建築コストのおおよそ3%~6%程度を設計費に割いています。

 

変形敷地を活用して建てられた賃貸物件
変形敷地を活用して建てられた賃貸物件(杉並区)  撮影:傍島利浩

一方で、ASJを通じて建築家に依頼した場合には、10%程度が建築家に支払われる設計監理料になる。当然、6%のほうが安いと感じるでしょうが、建築家のデザイン提案から、監理業務まで含めての報酬なのでとても分かりやすい、と好評いただいております。大手ハウスメーカーになるほど目に見えない間接コストは膨大になる。だから、トータルで見ると、遜色ない投資額になります。当社で土地の有効利用を考えて賃貸住宅を建てられるクライアントの平均予算は1億円程度。「同じぐらいの予算でハウスメーカーに設計を依頼したんだけどデザインが今イチで……」と言って、当社にプランニングを依頼される方も少なくありません(笑)。

 

ハウスメーカーで建てた場合、単身者用の1ルームをギュウギュウに詰め込んで投資回収を目指しますが、それだと年を追うごとに競争力が落ちて、回収できる家賃が減っていきます。しかし、建築家と作れば年間に見込まれる家賃収入はハウスメーカーに依頼した場合よりも若干見劣りする可能性はあっても、サブリース(家賃保証)なしで長期的に安定して回収が見込めますよ、と話すとだいたいのクライアントは当社のプランに乗ってくれます。

 

――建築コストはハウスメーカーと同水準であっても、より安定的な投資回収が可能ということですね。

 

「駅遠」でも人気が高い鵠沼海岸の物件
「駅遠」でも人気が高い海岸近くの物件(鵠沼)撮影:鳥村鋼一

竹内 「どんな立地の土地でも」と付け加えておきましょう。というのも、ハウスメーカーは先ほども話したように、ある程度決まった規格の賃貸住宅を手掛けるため、物件を建てる立地が非常に重要になります。

 

駅から遠かったり、変形地に建てるのは得意ではありません。「駅遠」ならば家賃を低く設定することでしか競争力を保てなくなってしまい、変形地では規格どおりの物件が建てられない可能性があるからです。しかし、建築家とつくると、個性的な物件ができあがることもできますが(笑)、その土地の特性を最大限に引き出すことが可能です。

 

「駅遠」の物件でも満室を維持できる理由

――実際、そのような土地の開発を手掛けた実例があるんでしょうか?

 

生産緑地を利用した農園と既存住宅をリノベーション
生産緑地を利用した農園と既存住宅を
リノベーション(茅ヶ崎)
農園を持てるイベントスペースに
農園を持てるイベントスペースに(茅ヶ崎)

竹内 いくつもありますね。例えば、逗子では公道から細い路地を入って奥まった土地……いわゆる“旗竿地”の開発を手がけています。その物件は逗子駅から徒歩20分という“駅遠”の物件でもあります。海が近いという特性があったので、外壁や屋根を色をマリンカラーで統一し、サーフボードを置ける設備を整えた部屋なども用意しました。

 

らせん階段を設置して、リビングスペースを広くとるなどしているため、非常に開放的なんです。おかげさまで、周辺家賃相場よりも割高の物件ではありますが、全室ともオープン当初から満室を維持しています。

 

――それだけ不利な立地条件でも賃貸住宅を建てられるものなんですね。

 

竹内 建築家のアイディアがなせる業だと思います。ほかにも茅ヶ崎駅から徒歩20分という立地で、周囲には畑が点在する住宅地のなかの土地の有効活用を求めるクライアントさんに対して、節税対策として生産緑地を利用した農園と既存住宅をリノベーションした会員向け農園とクラブハウスの建設を手掛けた事例もあります。これは、クライアントさんが農家だったこともあって、その経験を生かして、都心部に住まう人が農園を持てるイベントスペースにしましょうと提案して実現したものでした。

 

さらに、藤沢駅から徒歩20分の土地には、全8棟の建物と菜園からなる「ハナミズキ」という新しい街を作り上げたケースもあります。メゾネット式の賃貸住宅15室に加えて、コミュニティハウス、ゲストハウス、菜園などで街区を構成しているのですが、こちらも'14年のオープンから満室が続いています。ゲストハウスは入居者の親戚や友人が遊びに来たときに利用できる宿初施設になっているんです。

 

全8棟の建物と菜園からなる新しい街「ハナミズキ」
(藤沢)
全8棟の建物と菜園からなる新しい街「ハナミズキ」 (藤沢)

 

取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年5月23日に収録したものです。