近年、土地活用や資産形成の手段として注目を集めている「賃貸併用住宅」。本連載では、建築家を含む専門家にお話を伺い、その魅力や活用時の留意点などを探っていく。第1回目は、賃貸併用住宅の特徴や収益面でのメリットなどについて、神奈川の注文住宅建築の大手タツミプランニングと不動産管理大手のポートホームズ、日本最大級の建築家ネットワークを持つアーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)のそれぞれの担当者にお話を伺った。

なぜいま、「賃貸併用住宅」なのか?

――賃貸併用住宅のお話に入る前に、まずは国内の収益不動産の動向について、最近の状況を教えていただけますか?

 

株式会社ポートホームズ
執行役員開発事業部部長
坂原智之 氏
株式会社ポートホームズ
執行役員開発事業部部長
坂原智之 氏

坂原 全体的に供給過多になってきています。首都圏の場合、賃料相場はそんなに下がってはいませんが、既存物件の空室がじわじわと増えています。全管協(全国賃貸管理ビジネス協会)や日管協(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)といった業界団体の集まりでも、まず空室対策が一番の話題になりますし、オーナー様のほうでも、空室に敏感な方が増えています。

 

以前なら、まず表面利回りを気にされて、なるべく高い利回りを・・・とおっしゃるオーナー様が多かったのですが、いまでは、利回りがそんなに高くなくても、長期に安定して入居者がつく物件ということを第一に希望されるオーナー様が増えています。

 

株式会社ポートホームズ専務取締役平林智久
株式会社ポートホームズ
専務取締役
平林智久

平林 賃貸物件の需要についてですが、総人口が減り始めているとは言え、世帯数はまだしばらく増え続けますので、特に首都圏においては、全体的に需要が減っているということはあまり感じません。ただ、以前に大量供給があった狭めの1ルームや1Kの物件については、明らかに供給過剰になっています。

 

森田 収益物件を建てたいという投資家や土地オーナー様は、もちろん今でもたくさんいるのですが、ここ1年くらいで金融機関の融資姿勢がかなり厳しくなっており、ローンが組めない方が出始めています。2~3年前の金融機関であれば、担保割れをしていても事業計画や最終的なキャッシュフローを見てくれて、審査が通ることは普通にありました。しかし今は、担保評価割れ物件では、融資審査はまず通りません。

 

――収益物件全体で見ると、厳しい環境になりつつあるということですが、その中で最近は「賃貸併用住宅」が注目されていると伺っています。まず、賃貸併用住宅とはどのようなものなのでしょうか?

 

株式会社タツミプランニング
営業本部
ハウスラボ事業部
藤郷紳也 氏
株式会社タツミプランニング 営業本部 ハウスラボ事業部
藤郷紳也 氏

藤郷 文字どおり、戸建て住宅の一部を賃貸用として設計・建設して、その部分を人に貸すものです。たとえば、収益物件として5階建てのマンションを建てて、その最上階にオーナー様が住むといった物件も、広い意味では賃貸併用住宅と言えるのかもしれません。しかし一般的には、戸建て住宅で、自宅部分が「主」、賃貸部分が「従」になっている構造のものを賃貸併用住宅と呼んでいます。

 

弊社では最近、賃貸併用住居を建てたいという引き合いが増えていますが、その多くは、1室または2室を賃貸用にしたいという規模感です。

 

森田 賃貸併用住宅を建てる方の目的で一般的に多いのは、自宅用の住宅を建てる際、せっかくなら一部を貸し出し、その収入をローン返済の一部に充てようというものです。ですから、いわゆる不動産投資家として大きな収益を上げたり、資産を積極的に増やしたりすることを目指そうというものではありません。無理のない範囲で、ローン返済のための補助的な収入が得られるというのが、賃貸併用住宅を活用する際の基本的な考え方でしょう。

 

居住用と賃貸用の面積の割合で、ローンの種類も変わる

――収益性という観点から見たとき、賃貸併用住宅のメリットはどんなところにあるのでしょうか。

 

アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社プロデュース事業本部クライアントパー・トナー森田祐輔 氏
アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社
プロデュース事業本部
クライアント・パートナー
森田祐輔 氏

森田 賃貸併用住宅は、自分の好みにあった高いグレードの住居に暮らしながら、それを利用してプラスアルファの収入を得るという考え方が基本です。したがって、純粋な収益物件とはそもそも性格が異なります。

 

たとえば、通常だと3000万円の建築費で家を建てるところに賃貸部分を追加して、さらに全体にグレードを上げることで、建築費が5000万円になるとします。35年ローンで返済すると、毎月の返済はざっくり15万~16万円といったところでしょう。もし1部屋を賃貸にして、家賃収入の手取りが7万円だとすると、ローン返済額の半分弱を賃料でまかなえることになります。もし2部屋貸せれば、14万円で9割方がまかなえます。もちろん、実際には空室リスクもありますし、またさまざまな経費もかかりますが、収益の目安としてはこんな感じです。

 

――税制上のメリットなどを教えてください。

 

森田 家賃収入は不動産収入ですから、建物の建築費(賃貸部分)について減価償却が適用可能です。また、住宅ローンの金利部分(同)や、その他、賃貸部分にかかった費用は、必要経費として計上することが可能です。これらを計上すると、多くの場合、不動産収入部分は損失(赤字)になります。

 

この損失金額は、確定申告をすることで、ご本人の給与所得などから差し引くことができ、給与の課税額を圧縮できるので、源泉徴収によって支払っていた所得税・住民税の一部が還付されます。一般的には給与所得の高い方ほど、大きな節税効果を得られるでしょう。

 

――建築資金は通常の住宅ローンで借りられるのか、それとも事業用融資になるのでしょうか?

 

森田 それは、建物の総面積のうち、オーナー様が住む居住用部分の面積と、賃貸部分の面積の割合によって変わり、居住用部分の面積が、50%を超えているかどうかが目安になります。多くの金融機関では、居住用部分が50%以上であれば住宅ローンの利用が可能になります。また逆に、賃貸部分が50%を超える場合は、住宅ローンが利用できず、アパートローンなどの事業用融資を利用することになります。

 

ここで、ローン自体を比較すると、住宅ローンは最長35年返済が可能であり、また金利も非常に低くなっていますので、こちらを借りたほうが当然有利です。借入をするご本人の過去と現在の収入金額、いわゆる「属性」を判断基準にして、借りられる金額が算出されます。通常の住宅で3000万円の建築費なら住宅ローンが組めるが、賃貸併用住宅にして、建築費が5000万円になるとダメというケースも当然出てきます。

 

一方、建物の賃貸部分を50%以上にした場合に想定する事業用融資ですが、これは借入金額に対する収益性がネックになります。つまり、純粋な収益物件の場合、たとえば5000万円の建築費で賃貸部屋が4室取れる建物を建てられるとします。この場合、家賃が7万円とすると、28万円の家賃収入が見込めます。

 

ところが賃貸併用住宅の場合は、仮に建物の半分の面積で2室を賃貸にしたとしても、家賃収入は14万円です。これは自宅部分があるのですから当然ですが、純粋な事業の収益性という面から見ると、低くなるのです。事業用融資は、住宅ローンほど杓子定規には判断されませんが、中途半端な状況だと厳しいでしょう。

 

大切なのは、賃貸収入を、自宅から生まれるプラスアルファの「おまけ」的なものだとして考えるのか、それとも、本格的に収益事業として取り組みたいのか、最初の段階で方針をはっきりと決めておくことです。前者であれば、なるべく住宅ローンを引きやすいような工夫を考えますし、後者であれば逆に、事業用物件として有利に判断されるような設計にします。そしてそれは、金銭的な部分だけではなく、オーナー様がどんな「大家業」を営んでいきたいのかという、ライフプランにも関連してきます。

 

ですので、最初のプランニングの部分がもっとも重要です。その段階で、賃貸併用住宅を手がけた経験が豊富な建築家や税理士などとよく相談しながら、慎重に計画を練り上げていかなければならないと思います。

 

取材・文/椎原芳貴 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年5月18日に収録したものです。