昨年12月、下請代金の支払いについての通達が実に50年ぶりに見直され、さらに「下請中小企業振興法」の振興基準が大幅に改正された。下請法等の改正により、企業を取り巻く環境はどのように変わるのか? そして親事業者(発注者)として、どのようなサプライヤー(下請会社)の支援体制が求められるのか? 連載第6回目は、下請事業者の「取引条件改善」に向けた今後の取り組みについて、中小企業庁の安藤保彦取引課長にお話を伺った。聞き手は、売掛金の電子債権化事業に取り組むTranzaxの小倉隆志社長である。

取引環境改善状況を継続的に調査する「下請Gメン」

小倉 あとは、いかに親事業者が手形サイトの短縮化、および現金比率の向上に努めていくかですね。今年1月の安倍首相の施政方針演説でも、下請法等の改正に触れて「現金払いを原則とします」と話されていましたけど、実際には通達に強制力はありませんよね? どこまで中小企業庁などが本気で取り組まれるのか、正直、気になるところではあります。

 

中小企業庁 取引課長 安藤保彦氏
中小企業庁 取引課長 安藤保彦氏

安藤 おっしゃるように、どこまで実効性があるのか、というお声もいただいています。ですから、中小企業庁としては、継続的に親事業者、下請事業者へのヒアリングやフォローアップのための調査を行っていく予定です。

 

安倍政権主導で取引環境の改善を図ってきたこともあって、事業者の方々から「こういうことで困っているんだけど」という問い合わせも多くいただくようになりました。こうして収集した、事業者のみなさまの生のお声をもとに、手形サイトの短縮化の状況や現金比率の動向など、改善の状況について公表させていただく予定です。

 

今のところ、取り組みに後ろ向きな企業名の公表といった事にはならないと思っていますが、それでも特に親事業者の方々はある程度のプレッシャーに晒されることになるかもしれません。

 

小倉 今も、中小企業庁の方が、企業訪問を続けているのですか?

 

安藤 世耕プランの策定に向けた動向調査のために全国を飛び回っていた職員が、今日もあちこちの企業にお邪魔しているはずです。実は、今年1月には「下請Gメン」という組織を新たに立ち上げることを決定しました。その名のとおり、下請法に違反するような行為がないか、監視をするための専門部隊です。4月の新年度からは約50人の調査員を確保して、年間2000社以上の下請中小企業に対して訪問してのヒアリング調査を行っていく予定です。

 

小倉 それは親事業者の経営者は戦々恐々ですね!

 

安藤 もちろん、正攻法もとっています。昨年12月の下請法運用基準等の改正内容を踏まえた事例集、我々は「べからず集」とも呼んでいますが、法令違反に該当する行為を分かりやすくまとめた冊子なども作って配布しているのです。さらに、1つのケース毎に1枚のチラシにして手に取りやすい形にしたところ、行政の刷り物としては異例だと思うのですが10万部以上も配布されるという成果があがっています。

 

それだけ、全国の下請中小企業のみなさまのご関心が高いことの表れだと思います。国会議員の方々が、地元に戻られる際に、そのチラシを持って支援者の方を回ったりもされているようです。そのような国会議員の方々に話を聞くと、やはり「(支援者は)手形の話に強い関心を寄せていた」といいます。会合で「事業者間の支払いは原則、現金」と熱弁したら、拍手喝さいを浴びたという議員もいました(笑)。

 

手形に変わる支払手段の一つ「電子記録債権」

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏

小倉 予想していた以上に、下請事業者の取引条件改善に向けた取り組みの本気度が高いことに驚きました(笑)。そして、安心もしました。というのも、実は我々も親事業者と下請事業者との取引環境を改善するためのスキームを提供しているからです。現在は、発注があったらその注文書を“電子債権化”して即、発注額の半分までを現金化できる、というサービスの開発も進めています。

 

その点でいうと、下請中小企業振興法の振興基準の改正に際して、「情報化への積極的対応」という内容が盛り込まれた点には大いに期待しているのです。インターネットバンキングや電子記録債権等に対しても、その効果を十分検討のうえ、これに積極的に取り組んでいくこと、とされています。

 

安藤 繰り返しになってしまいますが、下請代金はできる限り現金で支払うというのが基本です。ただ、情報化の進展に伴い、多様な支払い手段も登場しているなかで、電子記録債権は手形の発行・保管にかかるコストが小さく、さらに削減や紛失・盗難のリスクも小さいという点で、金融庁も手形に変わる支払手段の一つとして、その普及に努めているものであります。そのメリットやデメリットなどもしっかりと見極めていただき、下請事業者にとって負担の小さい支払手段ということであれば、積極的に活用されるのではないでしょうか。

 

取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 
※本インタビューは、2017年2月13日に収録したものです。