建設業界では納品されてから120日後の支払いが一般的
――まず、レオパレス21のような大企業がなぜベンチャー企業であるTranzaxのサービスを導入しようと思ったのか教えてください。
深山 ご存じかもしれませんが、弊社のコア事業は賃貸事業と、建築請負や不動産開発を含めた開発事業になります。'17年3月期の連結売上高は約5200億円になりますが、この2つの事業が売上高の96%を占めています。年間の供給戸数は約8000戸で、直近の管理戸数は業界3位となる57万戸。
このほかにもシルバー事業やホテル・リゾート事業、国際事業も展開しています。人口減の中でも、入居需要が高く、確実に利益を見込めるエリアに集中して事業展開すること、そしてまた、そのエリアで安定的に賃貸住宅の供給戸数を増やしていることが、増収増益に結び付いているといっていいでしょう。
つまり、新たな賃貸住宅の開発を手伝ってくださる工務店や建材の卸業者あってのレオパレス21なのです。弊社にとって大切なステークホルダーである工務店などの経営環境改善は、回りまわって弊社のプラスにもなります。Tranzaxさんのサプライチェーン・ファイナンスを導入することに決めたのは、工務店にとっても弊社にとっても大きなプラスになると考えたからです。
――具体的に、そのサプライチェーン・ファイナンスはどのようにして工務店の経営改善に繋がるのですか?
小倉 建設業界では納品されてから120日後の支払いが一般的です。一部の代金は着工時や半分ほど施工が済んだ段階で支払われることが多いのですが、多くの工務店さんは物件を立ててから4か月も経たないと満額を受領できないのです。それも、支払いが手形だったりすると、銀行で割引かない限り、さらに満額を受け取れるのは3か月先となることもあります。
給料の日払いが多い職人さんの給与を考えると、工務店はものすごい負担を強いられてきたのです。これに対して、当社のサプライチェーン・ファイナンスは1%という低利で、サプライヤーである工務店さんに資金を供給できます。それも納品して、検収(仕様通りであるか否か検査すること)が済んで、最短2日後には資金が調達できるようになっています。サプライヤーの資金繰りが大幅に改善することは間違いありません。
なぜ1%という低利が実現できるのか?
芦村 補足しておくと、レオパレス21ではもともと手形での支払いは行っておりません。支払いサイトは最大で70日。それが、最短で2日に短縮されるということですね。
小倉 建設業界の中ではかなり短い方ですよね?
深山 そうだと思います。もちろん、上棟時や基礎工事が済んだ段階などに分割して代金を支払う出来払い制も取っています。ただ、それでもサプライヤーの資金的負担が大きいことは間違いありません。日払いで働く職人を多く抱えている工務店も少なくありませんので。
――なぜ、そんなに大幅な支払いサイトの短縮が可能なのですか?
小倉 細かく説明すると、サプライチェーン・ファイナンスの導入に当たって、当社とレオパレス21さんとでSPCを設立します。その上で、当社の子会社である電子債権記録機関「Tranzax電子債権」を通じて、サプライヤーさんに対する買掛債務を電子債権化するんです。サプライヤーさんから見れば、売掛債権。この債権に関して、サプライヤーさんの要望に応じて1%の金利を頂き、資金化をサポートする仕組み。簡単に言えば、売掛債権融資の電子債権版と考えてくれればいいでしょう。だから、資金化までの時間が非常に短くなるわけです。
深山 でも、売掛債権融資よりも低利ですよね?
小倉 もちろんです。一般に中小企業が手形の割引や売掛債権融資などで資金調達を行う場合には、短期プライムレート(1.475%)+αの金利が徴収されます。メガバンクなどが提供している一括ファクタリングサービス(銀行が大企業と契約して下請事業者の債権を買い取るサービス)も同様です。
ところが、今回のサプライチェーン・ファイナンスではレオパレス21さんという大企業の信用で資金調達ができるうえに、間接コストの非常に小さいTranzaxという小さなベンチャー(笑)が、SPCの決済業務をすべて代行する。だから、1%という低利が実現できるのです。ちなみに、1%といっても、最大の支払いサイトが70日だった債権にかかる金利ですから、「1%×70日÷365日」で、実際には0.2%の負担にしかなりません。100万円の債権ならば2,000円を差し引いて、2日後に99万8000円の資金が調達できるわけです。
(続)