いち早く「行動計画」を作成した自動車工業会
小倉 下請中小企業振興法の振興基準の改正は、かなり大がかりなものですね。単に改正するだけでなく、効果的な運用に向けて、すでに業界団体を巻き込んでいる点が素晴らしい。実際、日本のリーディングカンパニーが名を連ねる自動車工業会は、すでにHP上で自主行動計画を発表されている。素早い対応は、さすがの一言です。
安藤 自動車工業会はいち早く昨年12月22日に大筋の取りまとめを行っています。その自主行動計画は「開かれた公正・公平な取引」「調達先と一体となった競争力強化」「取引先との共存共栄」「原価低減等における課題・目標の共有と成果シェア」「相互信頼に基づく双方コミュニケーションの確保」という「調達5原則」を前文とし、原価低減を行う際には根拠を明確化して十分に協議するなど、改正した「運用基準」や「振興基準」、「手形通達」の内容を踏まえたものとしていただいています。
文書や記録を残さずに行う原価低減要請や口頭で数値目標を提示しての要請も行わない、と踏み込んだ内容も含まれています。「できる限り現金払いとすべく、現金化比率の改善に努める」という一文も盛り込まれています。取引先支援活動として、研究会の開催や専門性の高い人材の派遣なども記載されており、今後、業界を挙げて下請事業者の取引条件の改善が図られることに期待を寄せています。
小倉 自動車工業会以外の団体はこれから行動計画を作成するのでしょうか?
安藤 現在、自動車、素形材、建設機械、電機・情報通信機器、繊維、トラック運送、建設の7業種に属する12団体で、今年3月中をめどに計画の策定を進めていただいております。そのうち、日本自動車部品工業会は日本自動車工業会に続いて昨年12月28日には大筋のとりまとめを済ませ、概要を公表しています。
ほかにも素形材センターは骨子を発表しており、電子情報技術産業協会(JEITA)、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)、ビジネス機械・情報システム産業界(JBMIA)、日本電機工業会も大筋をとりまとめて公表済み。繊維では日本繊維産業連盟と繊維産業流通構造改革協議会の2団体が連盟で策定を進めています。
「世界のモデル」になり得る日本の中小企業対策
小倉 そうなると、4月からはその行動計画に基づいて、業界を挙げての取引適正化と付加価値向上が図られるわけですね。こうした日本の企業の行動力は、本当に素晴らしいですね。ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授の著書を読んでも、景気浮揚には中小企業対策が非常に重要だということが記されています。
しかし、欧米を筆頭に大企業と中小企業の格差は広がるばかりです。ニューリベラリズム(新自由主義)が浸透して、グローバル企業は新興国の安い労働力を求めてさまよい、労働者は“ただのコスト”という扱いになってしまっています。その結果、大企業は海外に工場を移転していますが、中小企業には困難です。中小企業は従来の取引先を失い、コストの削減も容易ではないというのが世界の現状です。
ところが、日本は今、大企業と中小企業が協調して、付加価値向上に取り組み始めている。中小企業の競争力が上がれば、何も安い労働力を求めて海外に工場を造る必要もなく、国内で生産しても十分な利益が見込めるようになる可能性もある。全体の底上げが進めば、日本の中小企業対策は世界のモデルになり得ると考えています。
安藤 まさにおっしゃられたとおり、今回の基準等の改正は、単に親事業者と下請事業者の適正取引だけでなく、サプライチェーン全体の付加価値向上に繋げていくことが狙いです。そのために、まずは望ましい取引慣行を実現していこうと。サプライチェーン全体のなかで、下請中小企業の皆さまにも果実が実り、設備投資や新しい技術開発、あるいは賃上げ等の労働条件の改善が進み、好循環が生まれることに期待しています。
そして、自主行動計画を策定される業種に属する各大企業が、「取引価格の決定では、不合理・不透明な原価低減要請は行わずに、双方に納得の得られるかたちに改善する」「金型の保管等についてルール化し、親事業者の事情で保管を要請する場合にはその保管コストを負担する」「代金の支払いについて手形支払いであったものを現金払いに改めていく」といった具体的な行動に移していただければと思っております。