家事は妻任せだった35年間…夫婦が決めた新しい役割分担
実は和子さんは、夫の退職が決まったころから、家事の分担について話そうとしていました。
「退職したら、家のことも少しお願いね」
そう伝えたことはありましたが、正志さんは「分かった、分かった」と答えるだけで、具体的な話にはなりませんでした。
「あなたは仕事を辞めたけど、私はまだ働いているのよ。今までと同じように家事を全部やっていたら、私の負担は増えるでしょう?」
和子さんの言葉に、正志さんは初めて自分の退職後の生活を考えました。
正志さんは現役時代、平日の帰宅が遅く、家事のほとんどを妻に任せていました。休日には洗車や庭の手入れをすることもありましたが、毎日の食事作りや洗濯、掃除を担当した経験はほとんどありません。
「でも、急に料理なんて言われても、何を作ればいいか分からないよ」
正志さんがそう言うと、和子さんは冷蔵庫を指さしました。
「卵もあるし、昨日のごはんも残ってるでしょう。最初はそれでいいじゃない」
「毎日、卵かけごはんってわけにもいかないだろう」
「だったら、少しずつ覚えればいいのよ」
和子さんは笑いましたが、冗談で言っているわけではありませんでした。
「私はこれからも働くつもりだし、休みの日には友達と出かけたい。あなたが家にいるからって、私までずっと家にいるわけじゃないからね」
正志さんは、妻が自分の退職を喜んでくれていると思っていました。実際、和子さんは長年働いた夫をねぎらい、前夜には好物の料理を用意してくれています。
しかし、退職後の暮らしについて、夫婦で具体的に話したことはありませんでした。
その日の昼食は、正志さんが自分で作った目玉焼きと、電子レンジで温めたごはんでした。
「フライパンを使うのも久しぶりで、卵を少し焦がしてしまいました」
正志さんは苦笑します。
数日後、夫婦は家事の分担について改めて話し合いました。
平日の昼食は各自で用意し、夕食は和子さんが仕事の日には正志さんも担当することに。掃除機がけとゴミ出しも正志さんの役割になりました。
最初は料理の手順が分からず、妻に何度も尋ねてしまったそうです。
「聞く前に、まず自分で調べてみて」
和子さんにそう言われ、最近はスマートフォンでレシピを探すようになりました。
「定年したら、毎日好きなことをして過ごせると思っていました。でも、家で暮らす以上、自分のことは自分でやらないといけないんですね」
正志さんはそう話します。
退職後は、自宅で過ごす時間が増えることで、夫婦それぞれの生活に新たな調整が必要になる場合があります。食事や掃除など、日常の家事を誰がどの程度担うのか。仕事を辞める前から具体的に話し合っておくことが、退職後の生活を円滑に始めるための一つの方法といえるでしょう。
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