「少し借りただけだよ」息子の返答に父が受けた衝撃
「少し借りただけだよ。あとで返そうと思ってた」
健一さんの言葉に、正雄さんは耳を疑いました。
「借りたって、俺は何も聞いてないぞ」
息子の説明によると、勤務先の業績が悪化して収入が減り、住宅ローンや子どもの教育費の支払いが苦しくなっていたそうです。
最初は買い物代の端数を自分の支払いに回し、その後、まとまった現金を引き出すようになったといいます。
「父さんは貯金もあるし、すぐに困るわけじゃないだろうと思って……」
その言葉に、正雄さんは強いショックを受けました。
「お金が必要なら、どうして先に相談してくれなかったんだ」
健一さんは謝りましたが、すぐに全額を返すことは難しいと話しました。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯の月平均可処分所得は11万8,465円、消費支出は14万8,445円。
正雄さんの収入や貯蓄は平均的な家計状況より余裕があるものの、本人の承諾なく引き出された60万円は、決して小さな金額ではありません。
正雄さんが何よりつらかったのは、息子への信頼が揺らいだことでした。
「買い物に来てくれるのが楽しみだったんです。お金のために来ていたのかと思うと、悲しくなりました」
数日後、正雄さんは離れて暮らす長女の美紀さん(48歳・仮名)に事情を打ち明けました。美紀さんは驚きながらも、まず銀行に相談するよう勧めました。
正雄さんはキャッシュカードの利用を止め、暗証番号を変更。銀行の案内に従ってカードを再発行し、出金履歴も確認しました。
健一さんには、買い物代として使った金額と、それ以外に引き出した金額を整理してもらうことに。本人が認めた60万円については、返済方法を話し合い、内容を書面に残しました。
ただし、親子間であっても、本人の承諾なく預金を引き出す行為は法的な問題になり得ます。正雄さんは、返済の約束だけで解決できるか、弁護士にも相談することにしました。
「息子を責めたい気持ちもあります。でも、親子だからこそ、曖昧にしてはいけないと思ったんです」
その後、健一さんからは一部の返済がありましたが、全額は戻っていません。買い物については、近所のスーパーの配達サービスを利用するようになりました。
健一さんも以前ほど頻繁には訪れなくなりましたが、正雄さんは「今は少し時間が必要だと思う」と話します。
高齢期には、家族の助けを借りながら生活を続ける場面も増えていきます。その際、買い物の手伝いと預金の管理をどこまで任せるか、支出をどのように確認するかを決めておくことが重要です。家族間でも金銭のやり取りを記録し、本人が口座の状況を確認できる仕組みを整えることが、トラブルの予防につながるでしょう。
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