娘の言葉で考え直したお金の使い道
美咲さんの問いに、和子さんはすぐには答えられませんでした。
「何のためって……何かあったときに困らないためよ」
「それは分かるけど、必要なものまで我慢することないんじゃない?」
和子さんは少し考えてから、こう話したそうです。
「昔はお金が足りなくなるのが怖かったの。でも、今は安く買えるとうれしいのよ。高いものを買うと、なんだか損した気分になるの」
節約を続けている理由は、必ずしも現在の経済的不安だけではありませんでした。
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、60歳以上の人が今後節約したいと考えているものは、「水道光熱費」が60.5%、「被服費」が52.8%でした。
また、同調査では金融資産の総額は平均1,769万円、中央値1,000万円となっています。和子さんの貯蓄4,500万円は、こうした調査結果と比べても大きな金額です。
ただし、金融資産が多いことと、本人がお金を気兼ねなく使えることは、必ずしも一致しません。
美咲さんは、母に旅行や高価な買い物を勧めたいわけではありませんでした。
「中古の服が好きなら、それでいいと思う。でも、靴みたいに安全に関わるものは、ちゃんと選んでほしい」
その言葉に、和子さんも納得した様子でした。
「確かに、転んで入院でもしたら、余計にお金がかかるものね」
後日、和子さんは美咲さんと一緒に靴店を訪れ、歩きやすさを確かめながら約1万5,000円の靴を購入しました。
「最初は高いと思ったけど、歩いてみると違うわね」
それから和子さんは、毎月の生活費とは別に、必要な買い替えや外出のための予算を設けることにしました。
といっても、暮らしを大きく変えたわけではありません。
夕方のスーパー通いは今も続いていますし、リサイクルショップにも足を運びます。
「安く買うのが好きなのは変わらないと思います。無理にぜいたくをする必要もないでしょう」
そう笑う一方で、以前から気になっていた寝室の古いエアコンは、次の夏までに買い替えるつもりです。
「壊れるまで使おうと思っていたけど、暑い日に動かなくなったら困るから」
美咲さんも、母の節約を頭ごなしに否定することはなくなりました。
高齢期のお金の使い方は、収入や貯蓄額だけで決まるものではありません。長年の生活習慣や、何に価値を感じるかによっても異なります。その一方で、住まいや健康、安全に関わる支出については、現在の生活に合っているかを時折見直すことも必要でしょう。
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