「一緒に住まなくてもいい」75歳夫婦が持ち家を手放した理由
「娘の家に転がり込むつもりはありません。私たちは私たちで暮らしたいんです」
そう話すのは、75歳の隆夫さん(仮名)です。
妻の和子さん(74歳・仮名)と2人暮らし。夫婦合わせて月約34万円の公的年金を受け取っており、日々の生活費には比較的余裕があります。
これまで暮らしていたのは、40年近く前に購入した郊外の一戸建て。住宅ローンは完済していましたが、築年数が経ち、階段の上り下りや庭の手入れが負担になってきました。
「この先、車を運転しなくなったら買い物にも困るわね」
和子さんがそう口にしたのは、近所のスーパーが閉店したころでした。
最寄り駅まではバスで20分ほど。夫婦とも現在は運転していますが、いつまで車を使えるか分かりません。
そんなとき、車で2時間ほど離れた街に住む長女の美咲さん(46歳・仮名)が提案しました。
「うちの近くに引っ越してきたら? 病院もお店も多いし、何かあったときも安心だよ」
美咲さんは夫と高校生の息子の3人暮らしです。さらに、「もしよかったら、一緒に住むことも考えるよ」と言ってくれました。
しかし、隆夫さんは首を横に振りました。
「気持ちはありがたいけど、同居はしないよ。お互いに生活のペースがあるだろう」
和子さんも同じ考えでした。
「娘たちには娘たちの暮らしがあるものね。私たちも、まだ自分たちのことはできるし」
夫婦は数ヵ月かけて物件を探し、娘の家から徒歩15分ほどの中古マンションを購入。エレベーターがあり、スーパーや病院にも歩いて行ける立地でした。
購入費用は約2,900万円。長年暮らした自宅は約2,100万円で売却し、差額や諸費用は預貯金から支払いました。娘夫婦からの資金援助は受けていません。
「年金で毎月の生活費を賄える見込みだったので、住み替えにお金を使うことにしました」
こうして始まった娘家族との近居生活。ところが、引っ越して間もなく、隆夫さんは思いがけない戸惑いを覚えます。
