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「孫のため」が負担になる
徹さん自身も「働けるうちは働く」という考えでした。
「妻を亡くし、家にいてもすることがない。働いているほうが健康にいいし、孫にお小遣いもあげられる。良いことばかりだと思っていました」
ところが、72歳を過ぎたころから体調に変化が出始めました。膝に痛みが出るようになり、仕事から帰ると横になる日が増えたのです。それでも翌月になると、大輔さんと彩さんに2万円ずつを渡します。
「これ、もうやめよう」
ある日、彩さんは受け取った封筒をそのまま父親に返しました。彩さんの家庭には住宅ローンがあります。夫の収入と彩さんのパート収入を合わせた世帯年収は約620万円。小学生の子どもを育てながら、月9万円の住宅ローンを返済しており、生活に特別余裕があるわけではありません。
父親から毎月お金を受け取ることについて、複雑な気持ちを抱えていたといいます。
「最初はありがたかったです。でもその時は父が再び働き始めたことを知らなかったんです。働いていることを知ってからは、素直に受け取れなくなりました」
彩さんが心配しているのは、父親自身の老後です。徹さんの預貯金は約880万円あり、今のところお金の不安はないでしょう。しかし今後かかる医療費や介護費用まで考えると、「孫のためだから」と毎年100万円以上を出し続けることが正しいのかは分かりません。
さらに体力的に働き続けることがしんどそうに見えます。仕事を辞めれば、孫のための支出は難しくなるでしょう。しかし、孫思いの徹さんは貯蓄を取り崩してでも援助を続けようとする……彩さんにとって父親はそういう人だったのです。
しかし、彩さんの申し出に対し、徹さんは納得しません。
「じゃあ、孫たちに何をしてやればいい?」
その言葉を聞いた彩さんは、すぐ返事ができませんでした。徹さんにとって、孫への月2万円のお小遣いは単なる金銭援助ではなくなっていたからです。
「孫のためにお金を使うことが、私の生きがいでした。孫のやりたいことを応援してあげられている、その実感が欲しかったんです」
しかし、彩さん、そして大輔さんの説得で、毎月のお小遣いはやめることに。その代わり、孫が何か目標を達成したとき、大輔さんと彩さんに相談のうえでお小遣いを渡すことにしました。また仕事も週3日から週2日、時間も半分に減らす方向で勤務先と相談することにしたといいます。
「孫に何かしてやりたい気持ちは変わりません。でも、無理を続けては意味がないですよね」
内閣府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』によると、高齢者が生きがいを感じる瞬間は「孫など家族との団らんの時」が55.3%で最多。また、同府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』でも、今後優先的にお金を使いたい先に「子や孫のための支出(お小遣い等)」を挙げる人が25.8%に上ります。
孫への支援が生きがいとなる高齢者は少なくありませんが、健康を害する無理な就労は禁物です。徹さんのように自身の体力に合わせた働き方に見直し、金銭に依存しない温かい家族交流の形を模索することも重要といえます。