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夢見た退職後のご褒美プラン
「お父さん、本当にお疲れ様でした。これで少しはゆっくりできるわね」
都内在住・佐藤智子さん(58歳・仮名)。夫の健一さん(60歳・仮名)の定年退職を心から労いました。健一さんは大手メーカーに38年勤め、退職金は約2,400万円。すでに同じ会社での再雇用が決まっており、月収は定年時の55万円から28万円へとほぼ半減するものの、住宅ローンを完済し、子どもたちも独立。年金受給までの繋ぎとしては十分な収入でした。
定年を迎える前から、夫婦の話題は退職金の使い道で持ちきり。
健一さんは「定年の記念に、ずっと欲しかった海外製の腕時計を買いたい」とカタログを熱心に眺めていました。智子さんも「私のバッグ、もう持ち手の部分がボロボロで恥ずかしいの。新しいのを買ってもいいかな」と尋ね、健一さんは二つ返事で了承しました。多少の贅沢をしても、老後資金は十分に残る計算です。
厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』によると、大学・大学院卒の定年退職者の平均退職給付額は1,896万円、勤続35年以上でも2,037万円です。健一さんの2,400万円は平均を大きく上回る額。退職金の使い道で夫婦で盛り上がるのは、当然のことかもしれません。
「北海道にカニでも食べに行こうか。カニ三昧」
そんなささやかで幸せな未来を、夫婦で思い描いていました。しかし定年から3カ月。退職金が口座に振り込まれたはずなのに、健一さんの態度は不自然でした。智子さんが「旅行の予約、いつにする?」などと持ちかけても、健一さんは「仕事がバタバタしていて」「後で後で」と、あからさまに話題を逸らすのです。
そのような態度は、段々と不信感に変わっていきます。
「本当に退職金が払われたのだろうか――」
業を煮やした智子さんは、リビングでくつろぐ健一さんに詰め寄ります。
「もう誤魔化さないで。なんで退職金の話から逃げるの。ちゃんと通帳を見せて」
智子さんが語気を強めると、健一さんは明らかに動揺し、顔をこわばらせました。
「……ちょっと、コンビニに行ってくる」
そう言い残し、財布だけを掴んで玄関を飛び出したのです。
「また逃げる気! 待ちなさいよ!」
智子さんはサンダル履きのまま外へ飛び出しました。健一さんは智子さんの姿を見ると、小走りで住宅街の角を曲がります。智子さんは周囲の目も気にせず、猛ダッシュで後を追いました。そして健一さんに追いつくと、
「いい加減にして! 隠し事があるなら、ここで全部吐きなさい!」
と問い詰めました。