(※画像はイメージです/PIXTA)

「○○さんの退職の件でご連絡しました。本人に代わりまして、退職の意思をお伝えいたします」――社員本人からではなく、退職代行業者から退職の連絡が入る。数年前までは考えられなかったことですが、今では決して珍しい話ではありません。経営者からすれば、「なぜ本人が直接言いに来ない?」「そんなの認めない」と言いたくなるのも無理はありません。しかし、感情的に対応してしまうと、法的なトラブルに発展するリスクがあります。今回は、退職代行から連絡が来たときの初動対応と、「突然辞められる会社」にならないための日頃の取り組みについてお伝えします。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

そもそも、退職代行はなぜ増えているのか

退職代行サービスの利用は、若手社員を中心に広がっています。その背景には、いくつかの理由があります。

 

「上司に直接言い出せない」「引き止められるのが怖い」「パワハラや長時間労働に耐えられないが、辞めると言うこと自体がストレス」。こうした心理が、第三者に退職意思の伝達を代行してもらうという選択につながっています。

 

また、SNS上で「退職代行を使ってみた」という体験談が普及し、利用への心理的なハードルが大きく下がっていることも要因のひとつです。

 

さらに、退職代行の利用料金は数万円程度と、決して高くありません。手軽に利用できる価格設定も、利用が広がっている理由です。

 

また、一部の退職代行サービスでは、退職が成立した後に就職エージェントから「こんな求人がありますよ」と転職先の紹介が届くケースもあると聞きます。どの業界も人手不足の今、退職した人材を狙い撃ちにするビジネスモデルが生まれているのです。すべての退職代行がそうだとは言いませんが、「辞めさせて、次を紹介する」という流れができつつあることは、経営者として知っておくべき現実です。

 

★大同生命の経営者向けコミュニティサイト
『どうだい?』 
中小企業経営者へのインタビュー記事を無料公開中!

会社は退職を拒否できるのか——法律上の整理

退職代行から連絡が来たとき、まず知っておくべきは「法律上、会社は退職を拒否できるのか」という点です。

 

正社員(期間の定めのない雇用契約)の場合、民法第627条により、労働者は退職の意思を伝えてから2週間が経過すれば、退職することができます。会社の承諾は必要ありません。

 

なお、月給制の労働者について、民法627条2項には『期間によって報酬を定めた場

 

合』の特則がありますが、民法改正により、この2項は使用者からの解約にのみ適用されることが条文上明確になりました。したがって月給制であっても、労働者からの退職には、原則通り1項の『2週間ルール』が適用されます。

 

有期雇用契約の場合は、原則として契約期間中の退職はできませんが、「やむを得ない事由」がある場合は認められます(民法第628条)。

 

つまり、正社員については、「退職を認めない」という対応は法律上通用しません。「引き継ぎが終わるまで辞めさせない」「損害賠償するぞ」といった対応は、逆に会社側のリスクを高めることになります。

 

また、退職代行サービスにもいくつかの種類があることを知っておきましょう。弁護士が運営するもの、労働組合が運営するもの、一般企業が運営するものがあり、それぞれ「できること」が異なります。弁護士や労働組合が運営する退職代行は、会社との交渉(退職条件や未払い賃金等)を行うことができますが、一般企業が運営する退職代行は、本人の意思を「伝達」することしかできません。どの種類の退職代行から連絡が来たかによって、対応の仕方も変わってきます。

退職代行から連絡が来たら——最初に確認すべきこと

代行から連絡が入ったとき、感情的にならず、以下の点を落ち着いて確認してください。

 

・本人の意思確認:退職代行を名乗る相手が本当に本人の意思を代弁しているか。本人の署名がある委任状や退職届の有無を確認する。

 

・退職日:いつをもって退職とするか。民法上は退職の申入れから2週間が経過すると退職が成立します。

 

・有給休暇の残日数:未消化の有給休暇がある場合、退職日までに消化するかどうか。有給休暇の取得は労働者の権利であり、拒否はできません。

 

・貸与品の返却:会社のパソコン、制服、社員証、鍵などの返却方法を確認。郵送での返却を依頼することも選択肢。

 

・機密情報の取り扱い:顧客情報や業務データの持ち出しがないか確認。

 

・社会保険・雇用保険の手続き:資格喪失届の提出、離職票の発行など、退職後の手続きを漏れなく行う。

 

・引き継ぎ資料の有無:本人と直接やり取りできない場合、既存の業務マニュアルや引き継ぎ資料の有無を確認。

 

これらをチェックリストとして社内に用意しておくと、いざというとき冷静に対応できます。

 

★大同生命の経営者向けコミュニティサイト
『どうだい?』 
中小企業経営者へのインタビュー記事を無料公開中!

知人の会社が就業規則に入れた「ある条文」

知人の会社では、顧問弁護士と相談のうえ、就業規則にこんな規定を入れたそうです。

 

「退職する月の最後の給与は、口座振込ではなく、直接手渡しとする」

 

つまり、最後の給与を受け取るために、本人が会社に来なければならない仕組みです。その際に、貸与品の返却や引き継ぎの確認を行うことが狙いとのことでした。

 

この仕組み自体は違法ではありません。労働基準法24条の賃金支払いの原則は「通貨で・直接・全額」であり、銀行振込はむしろ例外(労基法施行規則7条の2により本人の同意が必要)にあたるため、振込から手渡しに戻すこと自体に問題はありません。ただし、運用には注意が必要です。本人が出社しないことを理由に給与の支払いを保留・遅延させてしまうと、労基法24条の「全額払いの原則」「一定期日払いの原則」に抵触するリスクがあります。会社には期日通りに全額を支払う義務があるため、「出社しなければ払わない」という運用にならないよう、支払期日は厳守しつつ、貸与品返却等はあくまで任意の来社を促す動機付けとして位置づける必要があります。

 

すべての会社に当てはまる方法ではありませんし、運用には慎重さが求められます。ただ、退職代行を利用されることを想定して、あらかじめ就業規則で対策を講じている事業者もいるという事例のひとつとしてご紹介します。

退職代行が教えてくれる「会社の課題」

退職代行を利用されたとき、「なぜ本人が直接言えなかったのか」を考えることは、とても大切です。

 

本人が直接言えなかった背景には、こんな課題が隠れているかもしれません。

 

・上司とのコミュニケーション不足

・パワハラや高圧的なマネジメント

・評価への不満や、評価基準の不透明さ

・入社後のフォロー不足

・「辞めたい」と言い出せない職場の雰囲気

・孤立させてしまう組織構造

 

退職代行を使われたこと自体がショックかもしれません。でも、そのショックを「会社の課題を見つけるきっかけ」に変えることができれば、次の退職を防ぐことにつながります。

 

★大同生命の経営者向けコミュニティサイト
『どうだい?』 
中小企業経営者へのインタビュー記事を無料公開中!

"予兆なき退職"を減らすために、今日からできること

退職代行による「突然の退職」を完全に防ぐことは難しいかもしれません。しかし、予兆を早めに察知し、退職を思いとどまってもらえる職場をつくることはできます。

 

・定期的な面談:上司との1対1の面談を定期的に実施する。業務の話だけでなく、「困っていることはないか」「将来どうなりたいか」を聴く場にする。

 

・入社3ヵ月フォロー:入社直後は不安が大きい時期。3ヵ月間は意識的にフォローし、孤立を防ぐ。

 

・管理職教育:部下の変化に気づける管理職を育てる。「最近元気がないな」と感じたら声をかけられる関係づくり。

 

・ハラスメント相談窓口の整備:社内に相談できる場所があるだけで、「辞める以外の選択肢」が生まれる。

 

・「辞めたい」を言える職場づくり:退職の意思を直接伝えられる関係性こそが、退職代行を使わせない最大の対策。

 

人手不足のこの時代、社員が辞めてしまえば代わりの人材を見つけることは容易ではありません。採用にかかるコスト、教育にかかる時間、そしてその間の業務への影響——1人の退職が会社に与えるダメージは、想像以上に大きいものです。

 

だからこそ、退職代行から連絡が来てから慌てるのではなく、「辞めたいと思わせない職場」「辞めたいと思ったときに直接言える職場」を、日頃からつくっておくことが最も効果的な対策です。

 

退職代行に対する怒りや戸惑いは当然の感情です。でも、そこで立ち止まって「なぜうちの社員は、自分で辞めると言えなかったのか」を問い直すことが、強い組織をつくるための第一歩になるのだと思います。

 

 

安部 香織

社会保険労務士、行政書士

たいさんぼく社会保険労務士・行政書士事務所代表

 

★大同生命の経営者向けコミュニティサイト
『どうだい?』 
中小企業経営者へのインタビュー記事を無料公開中!

 

「どうだい?」が提供する経営に役立つサービスをご紹介!↓

人材採用・育成支援サービス

採用計画づくりから社員の育成まで、人手不足の課題を専門家と整理できます。

 

社員サポートパック

従業員の健康や働きやすさを支える福利厚生サービスです。

※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。