(※画像はイメージです/PIXTA)

ガソリン価格の高止まりは、営業車や配送車を保有する中小企業にとって、見過ごせない経営課題となっています。しかし、社用車に関するコストはガソリン代だけではありません。車両購入費やリース料、車検・整備費、任意保険料、駐車場代、ETC料金、タイヤ交換、事故時の修理費や代車費用、さらに事故対応にかかる人件費まで含めると、社用車の「総保有コスト」は想像以上に大きくなります。本記事では、ガソリン高騰をきっかけに見直したい、中小企業の「社用車コスト」について解説します。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

ガソリン代は「氷山の一角」

社用車コストといえば、多くの会社が最初に注目するのはガソリン代です。たしかに、毎月のガソリン代は目に見えやすく、価格高騰の影響も把握しやすい費用です。

 

しかし、社用車の本当の負担は、ガソリン代以外の部分に潜んでいます。たとえば、定期点検や車検、オイル交換、タイヤ交換、修理費、任意保険料、駐車場代、自動車税、リース料などは継続的に発生します。さらに、事故が起きれば、修理費や自動車保険料の上昇だけでなく、営業活動の停止、代車手配、顧客対応、社内報告、労災対応など、多方面に影響が及びます。

 

特に中小企業では、事故対応を総務担当者や経営者自身が行うことも少なくありません。その時間も実質的にはコストです。社用車の見直しでは、ガソリン代だけでなく、「1台を保有・運用するために年間いくらかかっているか」という総保有コストを把握することが重要です。

 

具体的には、車両ごとにかかるガソリン代、走行距離、修理費、保険料、車検費用、駐車場代、事故歴を一覧化します。そのうえで、稼働率が低い車両は台数削減やカーシェア・レンタカーへの切替えを検討し、走行距離が多い車両は燃費性能やリース条件を見直すといった対応が考えられます。

 

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社有車5台以上なら安全運転管理者の選任義務を確認

社用車を一定台数以上使用している会社では、安全運転管理者の選任義務にも注意が必要です。

 

警察庁の資料では、一定台数以上の自動車を使用する使用者は、自動車の使用の本拠、つまり事業所等ごとに、原則安全運転管理者を選任しなければならないとされています。具体的には、乗車定員11人以上の自動車を1台以上使用する場合、またはその他の自動車を5台以上使用する場合が対象です。大型自動二輪車・普通自動二輪車は、それぞれ1台を0.5台として計算します。

 

ここで注意したいのは、「会社全体で5台」ではなく、原則として「自動車の使用の本拠ごと」に判断する点です。本社、支店、営業所など、車両を管理・使用する拠点が複数ある場合には、事業所ごとの台数確認が必要です。

 

安全運転管理者を選任したときは、選任した日から15日以内に都道府県公安委員会へ届け出る必要があります。警察庁も、一定台数以上の自動車を使用する事業所ごとに安全運転管理者の選任が必要であること、安全運転管理者を選任したときは、選任した日から15日以内に都道府県公安委員会へ届け出る必要があります。また、選任義務違反に対する罰則は、50万円以下の罰金に引き上げられています※1

 

※1 警視庁「安全運転管理者の業務の拡充等」

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/index-2.html

11:00

安全運転管理者の業務には、運転者の状況把握、運行計画の作成、長距離・夜間運転時の交代要員の配置、異常気象時の安全確保、点呼等による過労・病気の確認、アルコール検知器を用いて運転者の酒気帯びの有無の確認、運転日誌の備え付け、安全運転指導などが含まれます。社用車を複数台保有する会社では、「誰が車両管理をしているのか」が曖昧になりがちです。台数要件に該当するかを確認したうえで、必要な選任・届出を漏れなく行うことが重要です。

 

酒気帯び運転の防止は企業責任の問題

社用車管理で特に重要なのが、酒気帯び運転の防止です。

 

飲酒運転は運転者個人の問題にとどまりません。会社が社用車を使用させている以上、運転前後の確認体制が不十分であれば、企業の安全管理体制そのものが問われます。事故が発生した場合、被害者対応、使用者責任、社会的信用の低下、取引停止など、会社への影響は極めて大きくなります。

 

警察庁によると、道路交通法施行規則の改正により、安全運転管理者には、目視等による酒気帯びの有無の確認と、その内容の記録・1年間保存が令和4年4月1日から義務付けられました。さらに、令和5年12月1日からは、アルコール検知器を用いた確認、その内容の1年間保存、およびアルコール検知器を常時有効に保持することも義務付けられています

 

実務上は、単にアルコールチェッカーを購入するだけでは不十分です。誰が、いつ、どの運転者に対して、どの方法で確認するのか。直行直帰や早朝出発、出張先からの運転、休日の緊急対応の場合はどうするのか。記録は紙で保存するのか、クラウドで管理するのか。検知器の故障や校正、電池切れをどのように防ぐのか。こうした運用まで決めておかなければ、制度は形骸化します。

 

中小企業では、人数が少ないため「いつもの社員だから大丈夫」という感覚で運用されることがあります。しかし、飲酒運転防止は信頼関係だけでなく、客観的な記録と仕組みで担保すべき分野です。

 

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社用車関連規程の整備がトラブルを防ぐ

社用車の運用でトラブルが起きやすい会社には、共通点があります。それは、ルールが口頭運用になっていることです。

 

社用車の使用を認める範囲、私的利用の可否、自宅への持ち帰り、通勤利用、ガソリンカードやETCカードの使用範囲、事故時の報告手順、違反時の取扱い、マイカー業務利用の条件などが曖昧なままだと、社員ごとに判断が分かれます。

 

たとえば、営業担当者が社用車を自宅に持ち帰り、そのまま休日に私用で使っていた。会社のガソリンカードで私用分の給油をしていた。家族が社用車を運転していた。駐車違反や交通違反の反則金を会社負担だと思っていた。このような事例は、ルールが明確でなければ起こり得ます。

 

そのため、就業規則本体とは別に、車両管理規程、社用車使用規程、マイカー業務使用規程などを整備することが望ましいでしょう。規程には、少なくとも次のような項目を盛り込む必要があります。

 

社用車の使用目的、使用許可の手続、運転者の資格確認、免許停止・取消し時の報告義務、私的利用の禁止または許可条件、自宅持ち帰りの条件、ガソリンカード・ETCカードの利用範囲、運転日報の提出、事故・故障・違反時の報告、飲酒運転・酒気帯び運転の禁止、スマートフォン操作の禁止、駐車場所、洗車・清掃、車内喫煙の可否、損害発生時の取扱いなどです。

 

特に懲戒や損害賠償に関わる事項は、就業規則との整合性が重要です。社用車の私的利用や酒気帯び運転、無断使用、虚偽精算などを懲戒対象とする場合は、就業規則の服務規律・懲戒規定にも根拠を置いておく必要があります。

 

自宅から社有車で営業する場合の労働時間管理

営業職では、社用車を自宅に持ち帰り、翌朝そのまま顧客先へ直行する運用が見られます。この場合、問題となるのが労働時間の把握です。

 

自宅から営業先へ向かう時間、営業先から自宅へ戻る時間が、常に労働時間になるわけではありません。通常の通勤に近い移動と評価される場合もあります。一方で、会社の指示により特定の時間に特定の顧客先へ向かう、業務用機材や商品を積んで移動する、移動中も会社から随時指示を受ける、移動ルートや出発時刻を細かく管理されているといった事情があれば、労働時間性が問題となります。

 

また、営業職だからといって、当然に事業場外みなし労働時間制を適用できるわけではありません。厚生労働省は、事業場外みなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な業務であると説明しています。携帯電話等で随時指示を受けている場合や、訪問先・帰社時刻等について具体的指示を受け、その指示どおりに業務を行う場合などは、労働時間の算定が可能であるため、みなし労働時間制の適用はできないとされています※2。

 

※2 厚生労働省「スタートアップ労働条件 労働時間・休日・休憩」
https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/roudoujikan/q10.html

 

近年は、スマートフォン、勤怠アプリ、GPS、営業日報、カレンダー共有などにより、外勤中の行動を把握しやすくなっています。そのため、「外回りだから労働時間は分からない」という説明は通りにくくなっています。厚生労働省の裁判例紹介でも、事業場外みなしの可否は、業務の性質、指示・報告の方法、勤務状況を具体的に把握できるかなどを踏まえて判断されることが示されています※3

 

※3 厚生労働省「確かめよう労働条件 事業場外労働のみなし制」
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/jigyoujougai/minashi.html

 

実務上は、直行直帰時の始業・終業時刻、休憩時間、移動時間の扱い、日報の記載事項、勤怠打刻の方法を明確にすることが重要です。社用車の自宅持ち帰りを認める場合には、車両管理の問題だけでなく、労働時間管理のルールもあわせて整備する必要があります。

 

マイカー業務利用は「便利」だがリスクも大きい

社用車を減らす方法として、社員のマイカーを業務に利用させる会社もあります。車両購入費やリース料を抑えられる一方で、マイカー業務利用には別のリスクがあります。

 

まず確認すべきは任意保険です。社員が個人で加入している自動車保険が、業務使用中の事故を十分にカバーできる内容になっているかを確認しなければなりません。対人・対物賠償が無制限か、使用目的が実態に合っているか、運転者限定や年齢条件に問題がないか、車検切れや保険切れがないかを定期的に確認する必要があります。

 

また、ガソリン代の精算方法、車両手当の有無、駐車場代、事故時の修理費、保険等級が下がった場合の取扱いも問題になります。会社の業務のためにマイカーを使用している以上、事故が起きた際に「社員個人の車だから会社は関係ない」とは言い切れません。

 

マイカー業務利用を認める場合は、事前許可制とし、免許証、車検証、任意保険証券の写しを提出させること、一定水準以上の保険加入を条件とすること、業務使用の範囲を限定すること、事故時の報告義務を定めることが必要です。実費精算以外に定額でガソリン代や車両手当を支給する場合は、給与課税や社会保険上の取扱いにも留意します。

 

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任意保険とロードサービスは「事故後の事業継続策」

社用車管理では、任意保険の加入・管理も重要です。対人・対物賠償を無制限とすることはもちろん、車両保険、人身傷害、弁護士費用特約、代車費用特約など、会社の業務実態に合った補償になっているかを確認します。

 

特に営業車や配送車は、1台止まるだけで売上や顧客対応に影響します。事故や故障の際にすぐ代車を手配できるか、レッカー移動やバッテリー上がり、パンク、鍵の閉じ込みなどに対応できるロードサービスがあるかは、実務上大きな差になります。

 

ロードサービスは、自動車保険に付帯している場合もあります。ただし、利用条件や距離制限、対象車両、代車費用の有無は保険会社や契約内容によって異なります。保険に入っているだけで安心せず、事故・故障時に誰へ連絡するのか、保険会社・リース会社・整備工場・社内担当者の連絡先を車内や社内共有フォルダに整理しておくことが大切です。

 

また、保険証券の管理が属人的になっている会社もあります。更新漏れ、補償内容の不一致、退職者が主たる運転者のままになっている、年齢条件が実態と合っていないといった不備がないよう、年1回は一覧表で確認する仕組みを作るべきです。

 

社用車の私物化を防ぐ

社用車制度で軽視されがちなのが、社用車の私物化です。

 

社用車を自宅に持ち帰ることが常態化すると、業務と私用の境界が曖昧になります。休日の買い物、家族の送迎、旅行、私用の給油、私物の積みっぱなし、車内の清掃不良などが放置されると、コスト増加だけでなく、事故時の責任問題にも発展します。

 

私的利用中の事故であっても、車両の所有者が会社である以上、被害者対応や保険対応に会社が関与せざるを得ないことがあります。さらに、会社名の入った車両で不適切な運転や駐車をすれば、会社の信用低下にもつながります。

 

防止策としては、社用車の私的利用を原則禁止とし、例外的に認める場合は事前許可制にすることが基本です。運転日報や走行距離記録を確認し、ガソリンカード・ETCカードの利用明細と照合することも有効です。ドライブレコーダーやテレマティクスを活用すれば、急加速・急ブレーキ・長時間運転などの安全運転指導にもつなげられます。

 

ただし、監視目的が過度になると、従業員の反発を招くことがあります。導入時には、事故防止、労働時間管理、車両コスト削減という目的を説明し、取得する情報、利用目的、管理者を明確にしておくことが望ましいでしょう。

 

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「持つ」から「使う」へ発想を変える

これからの社用車管理では、すべての車両を会社で保有する前提を見直すことも重要です。

 

利用頻度の低い車両はカーシェアやレンタカーに切り替える。訪問頻度の低い顧客対応はWeb会議にする。都市部では公共交通機関とタクシーを組み合わせる。配送ルートを見直して走行距離を削減する。こうした工夫により、燃料費だけでなく、保険料、整備費、駐車場代、事故リスクも下げることができます。

 

一方で、現場対応や緊急訪問が多い業種では、社用車を減らしすぎると、かえって業務効率が落ちる場合もあります。重要なのは、単純に台数を減らすことではなく、業務に必要な車両、代替可能な車両、リスクが高い運用を切り分けることです。

 

ガソリン高騰は、社用車制度を見直すよい機会です。燃料費削減だけを目的にするのではなく、安全運転管理、酒気帯び運転防止、労働時間管理、任意保険、ロードサービス、私的利用防止まで含めて整備することで、企業のリスクは大きく下がります。

 

社用車は便利な業務インフラである一方、事故や不適切利用が起きれば大きな損失を生む存在でもあります。中小企業こそ、「誰が、どの車を、どの目的で、どのルールに基づき使うのか」を明確にし、コスト削減と安全管理を両立させる社用車制度へと見直していくことが求められます。

 

 

 

岡 佳伸

特定社会保険労務士

 

 

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※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。