厚生労働省「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書 」によると、実はパワハラ被害を最も多く経験している雇用形態は、一般の正社員(17.9%)を抑えて「管理職」(男性:24.0%、女性:23.6%)であり、加害者が「部下」であるケースも3.6%存在します。さらに深刻なのは、勤務先が被害を認識しても53.2%が「特に何もしなかった」と放置し、61.4%が有無を「あいまいなまま」にしている現実です。今回は、部下から上司への「逆パワハラ」の事例をみていきます。
枕詞に「普通は」…正論を振りかざす29歳部下から、〈逆パワハラ〉を受けた51歳管理職の男性。29年務めた会社を去るまで (※写真はイメージです/PIXTA)

住宅ローン、子の教育費を抱えた状態での失業

29年勤めた会社を去ったマエダさんの手元には、重い現実が残されていました。住宅ローンと、子どもの教育費です。

 

次の転職先も決まらないまま失業保険でやりくりする日々。焦りと不安に押し潰されそうになるマエダさんに、妻は温かい言葉をかけてくれました。

 

「30年近く働いて、たくさん税金を納めてきたおかげで、いまはこうして手当をもらってゆっくり休めるんだよ。私が働くから、いまは今後のことばかり考えないで、身体を休めよう」

 

その言葉に救われ、涙が溢れたというマエダさん。しかし同時に、「家族に心配をかけ、妻に苦労をさせている自分」に対する情けなさと悔しさが胸を締め付けました。

 

その後、療養を経て現在は新たな職場で働きはじめています。しかし、以前の会社に比べて給料は下がり、家計への不安は拭えません。なにより、かつてのトラウマから「またなにか言われるのではないか」「相手を不快にさせるのではないか」と過剰に怯えてしまい、仕事上での対人関係に苦しむ日々が続いています。

管理職受難の時代

現代の職場において、ハラスメントの構造は複雑化しています。

 

ハラスメントの加害者は、男性、年長者、上司とは限りません。職場の力関係は単純な役職の上下だけで決まるものではなく、業務知識の偏り、集団内での同調圧力、SNSや社内チャットを通じた孤立化など、部下から上司、同僚間、組織から個人へと、さまざまなベクトルで生まれます。

 

現在、多くの企業がパワハラ防止に力を入れていますが、その刃が逆向きに使われた際、上司側は脆弱な立場に立たされがちです。

 

「管理職だから耐えて当然」「言い返せば『パワハラ上司』として訴えられる」――そんな恐怖から、部下からの度を越えた発言や嫌がらせに反論できず、一人で抱え込んでしまう管理職が後を絶ちません。しかし、管理職を「責任は重く、権限は弱い、なにを言っても訴えられる」という“罰ゲーム”にしてしまえば、組織そのものが立ち行かなくなります。このような状況を放置し、「管理職受難の時代」にしてはならないのです。

 

職場に必要なのは、上司か部下かという立場にとらわれないフラットな健全性です。業務上の「必要な指導や指摘」と、人格を否定する「人格攻撃や暴言」を切り分け、たとえ部下から上司に向けられたものであっても、不当なハラスメントには毅然と対処する組織的な仕組みづくりがいままさに求められています。

 

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