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1年ぶりの帰省で目撃した「あまりに異様な実家の光景」
言葉を失うとは、まさにこのことでした――。
そう当時のショックを振り返る、佐藤大輔さん(仮名・45歳)。北陸地方の実家には、73歳の母がひとりで暮らしています。仕事に追われるなか、実家への帰省は1年ぶりだったとか。
「電話での連絡はちょくちょくしていました。『元気?』『困ったことない?』と尋ねて、『元気だよ』『何も問題ないよ』と答える――そんな当たり障りのない、3分程度のやり取りですけど」
国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査(2022年)』によると、母親と離れて暮らす成人息子のうち、結婚している「遠居有配偶子(男性)」との会話頻度は、「月に1〜2回」や「年に数回」を合わせた割合が74.5〜88.6%にのぼります。また、同研究所『生活と支え合いに関する調査(2022年)』では、一人暮らしの「単独高齢女性」が普段誰かと会話する頻度について、「毎日」と答えた割合は49.6%と半数を割り込んでいます。こうした「月数回程度の短い電話のみ」という関係性は珍しくありません。
また大輔さんの母・美智子さん(仮名・73歳)は、元中学教師。“しっかりした性格の母”というイメージが強く、「どこかで安心しきっていた」と大輔さんは明かします。
久しぶりにお盆の休暇を利用し、単身で実家に足を運んだ大輔さん。しかし、最寄り駅から懐かしい実家の玄関を開けた瞬間、その安心感は一瞬で打ち砕かれることになります。出迎えてくれた母親の表情はどこか固く、どことなくソワソワとした落ち着かない雰囲気を漂わせていました。さらに、家の中に入って大輔さんは違和感を覚えます。
「以前は掃除を行き届かせていた母なのに、どこか家全体が薄暗く、台所には片付けられていない食器が残っていました。前日にも電話で帰省を伝えていたので、いつものように笑顔で手料理を振る舞ってくれると思っていただけに、異様な空気を感じたんです」
さらに大輔さんを激震させたのは、万が一の医療費や将来の施設費用を確認しようと、タンスの引き出しから探し出した母親の預金通帳でした。そこには、過去の履歴として、短期間のうちに「800万円」の引き出しが確認されました。不審に思い、何の用途で引き出したのかを尋ねると、美智子さんはうろたえながら、ぽつりぽつりと話し始めました。
「お巡りさんが来てね……お前が事件を起こして警察に捕まったから、示談金と釈放のためにお金が必要だって言われて……」
それは、典型的な警察官をかたる特殊詐欺の手口でした。
「頭の芯がスーッと冷えていくのがわかりました。母の年金は月15万円ほど。退職金はほとんど手つかずで、経済的に余裕がある。800万円程度失ったからといって、生活に直ちには問題ないように思えました。しかし母自身、うすうす詐欺にあったことをわかっていて、心ここにあらず、という状態だったようです」
実家の異変は、美智子さんの心理状態からくるものでした。それにしても、なぜ、毎月のように電話をしていたのに、美智子さんは被害を打ち明けなかったのでしょうか。
「母は警察を装った犯人から、誰にも話してはいけないと言われていたそうです。また元教師にも関わらず人に騙されたなんて、『恥ずかしくて、息子のお前にも言えなかった』と涙を浮かべていました」
元教師としてのプライドや、子どもに迷惑をかけたくないという強い思いが、かえって美智子さんを追い詰めた――気づいてあげることができなかったことに、「悔やんでも悔やみきれませんでした」と大輔さんは語ります。