(※画像はイメージです/PIXTA)

猛暑日の増加と電気料金の高止まりにより、夏の暑さ対策にかかる費用は、中小企業にとって無視できない負担となっています。また、従業員の健康や快適な職場環境を守り、事業を安定して続けるための暑さ対策は、中小企業経営において欠かせない取り組みの一つです。本記事では、中小企業診断士が、夏場に増えやすい費用を整理しながら、設備の買い替えや更新の考え方など、中小企業が計画的に進めたい夏の暑さ対策について解説します。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

1.電気代の高騰で、夏の経費負担が重くのしかかる

資源エネルギー庁によると、夏場のオフィスビルや飲食店における電力使用量のうち、空調が占める割合はおおむね5割とされています(業種や時間帯によって異同があります)。


特に、飲食店、美容室、小売店、事務所、製造現場など、営業時間中に冷房を止めにくい業種や場所では、電気料金の高騰による経費負担の増加は、近年見過ごせない問題となっています。売上が変わらなくても、電気代などの光熱費が増えれば、その分利益は削られます。利益率が低い事業では、たとえ数万円単位の負担増でも、資金繰りや手元に残る利益に大きな影響を及ぼします。

2.冷房を削ると、見えない損失が増える

電気代の負担が重くなれば、少しでも冷房を抑えて節約したいと考えるのは自然なことです。しかし、冷房の使用を控えることには注意が必要です。暑さによる作業効率の低下、従業員の疲労、ミスやクレームの増加など、数字では見えにくい損失が生じる可能性があります。電気代削減のため、働く人の健康や集中力まで削いでしまっては、本来守るべき経営の土台が揺らいでしまいます。また、店舗やサービス業であれば、接客の質やお客様の満足度にも直接的な影響が生じます。


2025年6月1日からは、改正労働安全衛生規則の施行により、熱中症のおそれのある作業(暑さ指数(WBGT)28度以上または気温31度以上の環境で、継続して1時間を超える、または1日の合計作業時間が4時間を超える作業)について、報告のための体制(連絡先・担当者)や、症状の悪化を防止するための対応手順をあらかじめ定め、関係作業者に周知することが事業者に義務付けられています。違反した場合は罰則の対象となる可能性もあります。暑さ対策は、快適さだけでなく、安全に働き事業を続けることにも関わるテーマです。電気代を抑えながら、いかにして安心して働ける環境を維持するかが問われています。

 

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3.電気代以外の“夏コスト”も見落とさない

夏場に増えるコストは、冷房にかかる電気代だけではありません。飲食店や小売店では、食品や商品管理のための保冷資材やクール便などの費用が増える場合もあります。温度管理の不徹底は、商品の傷みや廃棄ロスにもつながり、利益を押し下げる要因になります。


また、夏は設備への負担も高まります。エアコンや冷蔵設備の故障をはじめ、パソコン・サーバーへの影響が起きれば、修理費だけでなく、営業停止や仕事の遅れといった損失につながる可能性もあります。


こうした影響は、電気料金の明細項目だけでは把握しきれません。だからこそ、電気代だけでなく、現場で生じる変化を注意深く確認する必要があります。

4.コストがどこで増えているかを確認する

まず、どこで負担が増えているのか確認します。電気料金の明細を確認し、使用量、基本料金、前年同月との違いなどから、夏場にどの程度負担が増えているかを正確に把握することが、効果的な暑さ対策の第一歩です。


その上で、それらの項目と変化を、実際の現場状況と照らし合わせます。たとえば冷蔵設備の開閉回数、厨房や作業場の暑さなどは、電力使用量や廃棄ロスのみならず、作業効率にも影響します。必要に応じて、ピーク時間帯の電力使用量や契約内容を確認し、契約電力の見直しを検討することも一案です。


中小企業では、電気料金の数字と設備状態、そして現場で体感される暑さや困りごとを書き出すだけでも十分です。原因がわかれば、具体的な対策を見つけやすくなります。まずはWeb明細や請求書で、直近数か月の使用量と金額の推移を確認し、昨年の同じ時期と比べるところから始めてみませんか。

5.すぐにできる電気代削減策

夏場の電気代対策でまず考えたいのは、冷房を控えることではなく、冷房を効率よく使う工夫です。


すぐに取り組みやすいのは、エアコンのフィルターや室外機まわりの確認です。フィルターにほこりがたまっていたり、室外機の周囲に物が置かれていたりすると、エアコンの効きが落ち、余計な電力を使う原因になります。エアコンメーカーでは、フィルター掃除の目安を2週間に1回程度としている例もあります。事業所では使用時間や環境によって汚れ方が異なるため、まずは少なくとも月1回、繁忙期や飲食店など汚れやすい環境では、より短い間隔で確認するとよいでしょう。


ある事業所では、エアコンのフィルター清掃を一度にまとめて行うのではなく、部署ごと・月ごとに分けて実施できるよう、平面図に落とし込んで管理しています。「気づいた人がやる」ではなく「続けられる仕組み」を設計している点が参考になります。店舗や事務所のエアコンを一覧にまとめ、清掃日を決めておくだけで実施しやすくなる電気代対策です。


また、冷房に加え、扇風機やサーキュレーターを一緒に使えば、室内の温度ムラを減らし、冷たい空気が部屋全体に行きわたりやすくなります。一方、遮熱カーテン、ブラインド、遮熱フィルムなどを活用すれば、日差しによる室温上昇を抑えられます。特に西日が強い店舗や事務所では、窓まわりの対策も見直したいところです。


このように、電気代削減策は、単に冷房機器の使用量を減らすことだけを意味しません。働く人の健康や商品サービスの品質、お客様の快適さを守りながら、無駄な電力使用を減らすことが現実的な「暑さ対策」なのです。

 

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6.設備投資は“節約”ではなく、利益が残る仕組みづくりで考える

長年使用したエアコンや冷蔵・冷凍設備は、エネルギー効率の低下によって電気代の負担が大きくなりやすく、気づかないうちに毎月のコストを押し上げている場合があります。さらに、故障頻度が増えれば、修理費だけでなく営業停止や商品ロスにつながることもあります。


設備投資を行う際に大切なのは、本体価格などのイニシャルコスト(購入時にかかる費用)だけではなく、毎月の電気代、修理費、故障時の損失、働きやすさへの影響といったランニングコスト(使い続ける間にかかる費用)を含めて判断することです。


たとえば、買い替えによって電気代が月1万円下がる場合、年間では12万円のコスト削減になります。60万円の設備投資であれば、単純計算では5年分の電気代削減に相当します。実際には工事費や保守費、資金繰りなども含めて判断する必要がありますが、こうした目安を持つことが効果的な設備更新を考えるための第一歩になります。


家庭用エアコンについては、2027年度以降の省エネ基準の見直し、いわゆる「2027年問題」が話題になることがあります。これは、現在使っている機器が直ちに使えなくなるという話ではありません。機器の使用年数、電気代、故障リスク、快適性を整理し、計画的に買い替えることが大切です。


また、照明設備の見直しも意識したいことです。蛍光灯や白熱電球をLEDに交換すると、消費電力を大幅に削減できます。一般的に、LEDへの移行により、白熱電球からは約80~90%、蛍光灯からでも約40~60%の省エネ(電気代削減)が見込めるとされています(試算条件によって数値には幅があります)。さらに、LEDは熱を発しにくいため、空調の負荷を抑えられますし、長寿命のためランプ交換にかかる費用や手間も減らせます。


設備投資は単なる節約ではありません。利益が残りやすい状態をつくり、職場環境を守るための手段として考えることが大切です。なお、省エネ設備の導入には、国や自治体の補助金、省エネ診断などの支援制度を活用できる場合があります。ただし、制度は年度や地域によって内容が異なり、交付決定前に発注すると対象外となるケースもあります。利用する場合は、最新の公募情報を確認し、設備更新の目的や投資回収の見通しを整理したうえで検討してください。

7.これからの中小企業は「暑さ対策」も経営戦略になる

猛暑や電気料金の変動は、今後も継続的に経営へ影響を及ぼす可能性があります。だからこそ、夏のコスト増対策は、その場限りの対応で終わらせず、毎年の予定に組み込んでおくことが大切です。春先に空調設備や電気料金を確認し、夏前に必要な対策や予算を検討する。そうした点検の流れを仕組み化することで、計画的に夏の厳しい暑さに備えることができます。


暑さ対策は、会社の利益を守るだけでなく、働く人とお客様を守る取り組みでもあります。これからの中小企業にとって、夏をどう乗り切るかは、経営上の大切な取り組みの一つになっていくのではないでしょうか。

 

〈今日からできる「暑さ対策」チェックリスト〉

・電力会社のWeb明細や請求書で、電気使用量と金額の推移を確認する

・エアコンのフィルター清掃日をカレンダーに登録する

・室外機まわりや日差しの入り方など、現場の状態を確認する

 

 

 

有村 知里

中小企業診断士

アイパス経営コンサルティング株式会社代表取締役

1997年の独立以来、中小企業の経営相談、経営計画策定・実行支援、組織づくりに携わる。原価や利益の見える化、価格の考え方、社員が力を発揮できる仕組みづくりを通じて、小さくても強くてやさしい会社づくりを支援している。

 

 

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※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。