厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、要介護者等と同居している主な介護者のうち、男性の75.0%、女性の76.5%が60歳以上であり、いわゆる「老老介護」のケースが相当数存在していることが分かっています。介護保険制度の枠組みだけでは支えきれない、現代特有の「介護格差」が深刻化しています。そんな社会課題に直面している一つの事例を通して、その実態をみていきます。
親の介護「月35万円でプロに任せる人」と「任せられない人」の残酷な格差 (※写真はイメージです/PIXTA)

資金力の差がもたらす選択肢の有無

加藤さんが限界を感じる一方で、現役時代の同期だった知人は、同じように要介護3の親を民間の高級サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)へ入居させ、介護の一切を「プロに丸投げ」しています。その知人は現役時代の手取りを原資に潤沢な資産を築いており、月額35万円以上の費用を難なく支払っているといいます。

 

「知人は『プロに任せるのが親のためにもなる』と笑っていました。そりゃあ、お金があればいくらでも丸投げできるでしょう。でも、うちにはそんな選択肢はありません」

「最初からお金があれば、割り切ることができたのかも。親を施設に入れることへの抵抗感は、お金に不安があったことも一因だったかもしれません」

 

加藤さんの実家は築40年の木造住宅で、バリアフリー化はされていません。廊下や浴室の段差で母親が転倒するリスクが常にあります。住宅金融支援機構などのリバースモーゲージ型住宅ローンを利用したバリアフリー改修も検討しましたが、加藤さん自身の年金収入の低さと、将来への不安から断念しました。その結果、母親が動くたびに加藤さんが付き添わなければならず、自身の自由な時間は完全に消失しました。

 

支出は増え続ける一方です。母親の医療費と介護費で月16万円、実家の維持費や光熱費などで細かな出費が重なり、加藤さんの手元にある貯蓄はすでに1,200万円を切っています。自分の老後資金として残しておくべきだった原資が、親の介護により削られていきます。

 

最近では、母親が介護職員に対して激しい暴言を吐くようになり、デイサービスの利用回数を減らさざるを得ない状況に追い込まれました。ケアマネジャーからはショートステイの利用枠を増やす提案を受けていますが、1回利用するごとに数千円から1万円の追加費用が発生するため、加藤さんは首を縦に振ることができません。

 

「これ以上貯蓄が減ったら、母親が亡くなった後、私自身の老後はどうなるのか。そう考えると、一円でも切り詰めなければならない。結局、自分が我慢して面倒を見るのが一番安上がりだという結論になってしまうんです。お金、お金、お金――お金で解決できるかどうか、なんですよ」

 

地域の相談窓口や行政の支援体制は存在しているものの、最終的にどれだけの費用を投じられるかという「資金力の差」が、そのまま介護を担う家族の介護格差へと直結しています。

 

しかし、お金がないからといって家族だけで抱え込み、共倒れになる必要はありません。公的な選択肢は残されています。親の世帯収入や資産が一定基準以下であれば、特別養護老人ホーム(特養)などの公的施設の居住費や食費が軽減される「特定入所者介護サービス費(補足給付)」の制度があります。

 

また、在宅介護を続ける場合でも、世帯の介護保険の自己負担額が上限を超えた分が払い戻される「高額介護サービス費」の制度を活用すれば、月々の負担を抑えることが可能です。

 

「お金で解決できない」と諦めて孤立する前に、まずは地域の「地域包括支援センター」へ家計の窮状をありのままに伝え、減免制度を組み合わせたケアプランへの見直しを強く求めることが、この格差に抗うための現実的な方法となります。