(※写真はイメージです/PIXTA)
「この先、何年生きるか分からない」70歳女性の不安
「貯金がなくなる前に相談したかったんです」
東京都内の賃貸住宅で暮らす田中和子さん(70歳・仮名)。和子さんの収入は、2ヵ月に1度振り込まれる国民年金のみで、月約7万円。夫は12年前に亡くなり、それ以降は一人暮らしを続けています。
現在住んでいるのは築40年以上の木造アパート。家賃は月2万8,000円。駅から離れた場所にありますが、年金収入だけで暮らすには、これ以上家賃の高い部屋へ移る余裕はありませんでした。
毎月の支出は家賃のほか、「電気・ガス・水道」が約1万2,000円、「食費・日用品」が約2万5,000円、「通信費」が4,000円、「通院費・薬代」……約5,000円。毎月5,000円程度不足し、その分を以前から少しずつ残していた預金で補っていました。
しかし、その預金も50万円を下回りました。
「以前なら、少し節約すれば何とかなると思っていました。でも、食品も電気代も上がって、削れるところがなくなってきました」
和子さんが生活の不安を強く感じるようになった背景には、物価上昇があります。令和8年度、公的年金の支給額は、国民年金で1.9%、厚生年金で2.0%、それぞれ、引き上げられました。支給額の引き上げは4年連続というものの、引き上げ率は、将来の給付水準を確保する「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みによって、賃金の伸びより国民年金は0.2%、厚生年金は0.1%、低く抑えられていて、実質的には目減りとなっています。
一方で厚生労働省『2024年 国民生活基礎調査』によると、「所得の100%が公的年金」という高齢者が4割、「80~100%」も合わせると6割ほどとなり、物価高の影響は計り知れません。
「あと何年生きるか分からないのに、お金を使い切っていいのか、それとも我慢し続けるべきなのか。その判断すらできなくなりました」
そう考えた和子さんは、地域の福祉事務所へ相談に向かいました。
役所で聞かされた「まだ大丈夫です」
生活保護の相談窓口で、和子さんは現在の収入、家賃、預金額について説明しました。担当者からはいくつか質問を受けました。
「親族の方から援助を受けることは難しいでしょうか」
和子さんには、県外に住む長男がいます。しかし、頻繁な援助を頼むことには抵抗がありました。
「息子にも家庭があります。自分の生活で精いっぱいなのに、母親のお金まで背負わせたくありません」
生活保護制度では、申請者の収入や資産だけでなく、親族から援助を受けられる可能性なども確認されます。一方で、親族との関係性は家庭ごとに異なります。形式上は家族がいても、経済的な支援を受けられるとは限りません。
和子さんが最も気になっていたのは、50万円ほど残っている預金でした。
「このお金があるから生活保護は難しいのでしょうか」
担当者から返ってきた説明は、和子さんが想像していたものとは違いました。
「現時点では、まだ生活を維持できる資産があると判断される可能性があります」
つまり、預金が一定程度残っている段階では、まずその資産を生活費に充てることが前提になる場合があります。
――貯金がゼロになるまで待つしかないんですか?
――病気になったらどうするんですか?
――家電が壊れたら?
――急な出費があったら?
行政側の説明は制度上の判断でした。しかし、相談者側には「今困っているのに助けてもらえない」という感情が残ります。生活保護は、生活に困窮する人の最低限度の生活を保障する制度です。一方で、利用に至るまでには収入、資産、扶養関係など複数の確認があります。
そのため、相談時点で「対象になるか分からない」と感じ、不安を抱える高齢者も少なくありません。