厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、老齢厚生年金の受給権者数は約1,600万人にのぼります。夫婦の年金を老後の柱とする世帯は多い一方、配偶者の死亡後に受給額が大きく変わるケースもあります。ある女性の事例から、その実態をみていきます。
遺族年金は「亡夫の年金の4分の3」のはずが…〈年金月27万円〉70歳夫急逝。年金事務所の担当者が淡々と伝えた「信じがたい金額」に68歳妻、絶句

「4分の3あるはず」が崩れた日

「夫の年金が月27万円だったので、遺族年金は少なくとも20万円前後は残ると思っていました」

 

東京都内に住む佐藤美智子さん(68歳・仮名)。夫の和夫さんは長年勤めた会社を定年退職、悠々自適な生活を送っていましたが、70歳のときに心筋梗塞で急逝しました。

 

和夫さんの年金額は月約27万円。美智子さん自身の年金は月約16万円ありました。夫婦合わせた年金収入は月約43万円。それに対し、固定資産税や管理費、医療費などを含めると、毎月の支出は約28万円でした。

 

「贅沢をしていたわけではありません。でも、夫がいなくなった後も、今の生活水準を少し下げるくらいで済むと思っていました」

 

美智子さんがそう考えていた理由があります。「遺族年金は、亡くなった夫の厚生年金の4分の3がもらえる」と、聞いていたからです。実際、会社員だった夫が亡くなった場合、一定の条件を満たす妻には遺族厚生年金が支給されます。その額は、原則として亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。

 

しかし、美智子さんが年金事務所で聞いた金額は、想像していたものとは違いました。

 

「月20万円くらいになると思っています」

 

そう伝えた美智子さんに、担当者は「奥さまの場合、遺族厚生年金は月1万5,000円ほどと考えられます」と淡々と説明しました。

 

「何か計算が間違っていると思いました。夫は毎月27万円も年金をもらっていたのに、なぜ1万5,000円なのか理解できませんでした」

知らなかった年金の優先ルール

美智子さんは帰宅後、自分でも制度を調べ始めました。そこで分かったのが、遺族厚生年金の計算対象になる部分です。夫の年金月27万円のすべてが対象になるわけではありません。

 

老齢基礎年金部分は含まれず、厚生年金の報酬比例部分をもとに計算されます。また、夫が年金の繰下げ受給を選択して増額されていた場合、その増額分は遺族厚生年金には反映されません。

 

和夫さんは65歳時点で受給開始せず、70歳まで繰下げていました。その結果、本人が受け取る老齢年金額は増えていました。しかし、その増額された部分は、死亡後の遺族厚生年金には引き継がれません。

 

「夫は将来のためにと思って繰下げを選んだんです。私も、その判断が間違っていたとは思いませんが、そんなルールがあったなんて」

 

さらに、美智子さんにはもう一つの壁がありました。自身の老齢厚生年金を受給している場合、65歳以上の妻の遺族厚生年金は、自分の老齢厚生年金との調整があります。つまり、夫の遺族厚生年金がそのまま上乗せされるわけではないのです。

 

美智子さんの場合、自分の老齢厚生年金が優先される形となり、受け取れる遺族厚生年金との差額分のみが加算される計算でした。

 

整理しましょう。遺族厚生年金の年金額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が原則。ただし65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある人が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3」と「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分のと、自身の老齢厚生年金の2分の1の合算」を比較し、高いほうが遺族厚生年金の額となります。

 

●和夫さんの老齢厚生年金:月12万円(65歳で受給開始の場合)

●美智子さんの老齢厚生年金:月9万円

●和夫さんが亡くなったことによる遺族厚生年金:10.5万円

ー和夫さんの老齢厚生年金の3/4=9万円

ー和夫さんの老齢厚生年金の1/2と、美智子さんの老齢厚生年金の1/2=10.5万円

 

「10.5万円-9万円=1.5万円」。つまり美智子さんは遺族厚生年金を1万5,000円ほどしか受け取れないということになります。

 

「夫の年金の4分の3という言葉だけを覚えていました。まさか、自分の年金との関係や、繰下げ分が対象外になるなんて知りませんでした」