経済的自由を手に入れる手段として注目されるFIRE。しかし、会社を辞めた後の人生については十分に語られていません。資産形成という目標を達成したにもかかわらず、その後の生活に戸惑いを抱える人もいます。40代でFIREを実現した男性の事例から、経済的自由の先にある現実をみていきます。
「資産1.2億円でも、ちっとも幸せじゃない…」43歳でFIRE達成の男性。昼からNetflixをダラダラ観るだけの日々「このまま人生終わるのかな」 (※写真はイメージです/PIXTA)

昼からNetflix、ジム、帰宅…変わり映えしない毎日

自由な日々は、少しずつ日常へと変わっていきます。

 

朝起きる。ニュースを見る。株価を確認する。ジムへ行く。帰宅する。Netflixを観る。昼寝をする――翌日も同じ生活サイクルで、その翌日も、ほぼ変わりません。

 

「会社員の頃は、週末が待ち遠しかった。金曜の夜は、本当にうれしくて、楽しくて。でも今は毎日が休みで、淡々と時間だけが過ぎていくんです」

 

自由になれば人生はもっと面白くなる。そう思っていました。しかし実際は違ったのです。

 

「FIREが目標になりすぎていたんです」

 

現役時代は常に目指すものがありました。資産額を増やす、昇進する、仕事でも投資でも成果を出す――時間には区切りがありました。ところがFIRE後は違います。次の目標がありません。誰かから求められることはありません。締め切りもありません。頑張る理由も見当たりません。

 

「会社員の時代は嫌なことがいっぱいあった。でも、辞めたら辞めたで何をすればいいか分からなくなったんです」

 

内閣府『人々のつながりに関する基礎調査』によると、趣味やボランティアなどの社会参加活動に「特に参加はしていない」人が、孤独感を「しばしばある・常にある」と感じる割合は6.5%に上り、「いずれかの活動に参加している」人(2.1%)の約3倍に達します。FIREにより経済的余裕と自由な時間を手に入れたものの、会社という社会との接点や目標を失い、新たな役割やつながりを見出せない状況が、深い虚無感と孤独を招く要因となっています。

 

田中さんも、自分がそうした悩みを抱えるとは思っていませんでした。むしろ一人の時間が欲しくてFIREした側です。しかし退職後、仕事が果たしていた別の役割に気付きました。

 

人との接点、同僚との雑談、取引先とのやり取り、何気ない会話――それらが一気になくなりました。友人たちは平日働いています。元同僚とも少しずつ疎遠になっていき、退職後、数カ月もしないうちに、「今日は誰とも話をしていない」「1週間ほど、会話らしい会話をしていない」というような瞬間が増えていったのです。

 

最近は、決まった時間に、近所のカフェに行くようにしています。そして毎回、カフェラテを頼み、ネットニュースを見て時間をつぶしています。常連になることで、店員と話す機会が生まれました。同じように、決まったタイミングで、書店に行ったり、スーパーに行ったり、コンビニに行ったり……すべて、「誰かと話すこと」が目的です。

 

「若い頃は、お金さえあれば自由になれると思っていました。しかし、自由だから幸せということではないのですね」


資産1億2000万円を築き、43歳で会社を辞めた田中さん。組織に縛られない生活に幸せを感じる人もいるでしょう。しかし、田中さんは違いました。経済的な不安のない生活のなかで、毎日をどう過ごすかが、大きな課題になったのです。田中さんは今、新しい目標を探しています。