(※写真はイメージです/PIXTA)
78歳母「家が潰れると言われた」
「今すぐ直さないと、家が潰れますよって……」
電話口の母の声は震えていました。東京都内で会社員として働く田中健一さん(52歳・仮名)は、その言葉を聞いた瞬間、胸騒ぎを覚えたといいます。
相手は埼玉県内にある実家で一人暮らしをする母、田中和子さん(78歳・仮名)。父は5年前に他界。築43年の木造住宅で暮らしています。年金収入は月14万円ほど。預貯金は約550万円。慎ましく暮らし、これまで大きな金銭トラブルとは無縁でした。
「屋根が危ないって言われたの。近くで工事していた人が見つけてくれて……」
話を聞くと、数日前に突然訪問してきた業者だったそうです。
「このまま放置したら台風で屋根が飛びますよ」
「柱まで傷んでいる可能性があります」
「今日契約してくれれば特別価格です」
そんな説明を受けたというのです。違和感を覚えた健一さんは翌日の有給休暇を取得し、急いで実家へ向かいました。そこで目にしたのは、ダイニングテーブルの上に置かれた契約書でした。
契約金額は298万円。 工事内容は屋根補修、外壁塗装、防水工事など。契約日は3日前になっていました。
「なんで相談しなかったの?」
思わず声を荒らげると、和子さんは小さくうつむきました。
「だって、家が潰れるって言われたから……」
契約書には「本日中の契約につき特別値引き120万円」という記載もありました。しかし工事内容の詳細は曖昧です。写真も数枚添付されていましたが、本当に自宅のものか判別できません。
健一さんはその場で業者へ電話をかけました。すると担当者は強い口調で言い返してきました。
「お母さまは納得して契約されています」
「今さら取り消しは難しいですね」
「工事準備も進んでいますから」
その態度に、健一さんはますます不信感を募らせました。
契約書の違和感
実は近年、このような相談は珍しくありません。
国民生活センターには、高齢者を中心とした住宅修理やリフォームに関する相談が継続的に寄せられています。特に訪問販売型の契約では、「不安をあおられた」「今すぐ必要と言われた」という訴えが目立ちます。
また訪問販売によるリフォーム工事の相談件数は、2022年~2024年は毎年1万件前後で推移。一方、点検商法の相談件数は、2022年8,166件だったのが、2024年には1万9,215件と急増しました。
和子さんの場合もまさに同じ構図でした。
一人暮らしで相談相手が近くにいません。住宅の知識もありません。突然訪れた業者から専門用語を並べられます。「危険です」「放置できません」――そう言われれば不安になるのは当然です。
さらに健一さんは別の問題にも気づきました。契約金額のうち、すでに150万円が支払われていたのです。和子さんは銀行で定期預金を解約し、その日のうちに振り込んでいました。残りは工事完了後の支払い予定でした。
「そんな大金を簡単に振り込んだの?」
健一さんが尋ねると、母は困ったように答えました。
「断ったら怒られそうで……」
その一言に、高齢者が置かれた現実が凝縮されていました。恐怖を感じた相手に対して、「嫌だ」と言えません。相手が強く出れば出るほど従ってしまうのです。そこにつけ込む業者は少なくありません。