老後の憧れを詰め込んで購入した、理想のマイホーム。しかし、加齢による体力の衰えや毎年の過酷な猛暑により、庭の維持管理が深刻な負担となってしまうケースは少なくありません。ある夫婦の事例を通して、老後の住まい選びと快適さを保つ工夫を紐解きます。
「庭のある家で孫と犬と遊ぶはずだった…」〈年金月32万円〉65歳夫婦、夏の猛暑に絶望した理由と、その先に見た希望 ※写真はイメージです/PIXTA

草が伸びるたび焦る夏

広い家に広い庭。そこで遊ぶ孫と犬――

 

そんな夢を描いていた佐々木正夫さん(65歳・仮名)と妻の恵子さん(65歳・仮名)。正夫さんは現役時代、転勤が多く、基本的に住まいは会社が借り上げている賃貸マンションでした。

 

だからでしょうか、持ち家への思いは人一倍だったと振り返ります。60歳定年で再雇用となって東京本社勤務となり、そのまま65歳で年金受給が始まるタイミングで、会社を去る決意をしました。そして老後の住まいとして、家を買う決断をしたのです。

 

総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、全国の持ち家住宅率は60.9%ですが、65歳以上の高齢者のいる夫婦のみの世帯では持ち家率が87.6%。また、家計を主に支える者が「65〜69歳」の世帯では63.4%が現在の住居の敷地を所有しています。

 

二人が決めたのは、首都圏郊外の一戸建て。広い庭付きで、4,900万円。現金購入で住宅ローンは利用しませんでした。

 

「固定費が安かったので、その分、すべて貯金に回してきました。とうとう使う時が来たのだと、少し感慨深かったです」

 

二人の年金は月32万円、手取りにすると月27万円ほどです。生活費は月20万円ほどで、年金だけで十分生活できるばかりか、貯金だってできます。家を買ってもなお、2,000万円ほどの預貯金があります。老後の生活に、お金の不安はまったくありませんでした。

 

家は120平米の5LDK。夫婦それぞれが書斎を持ち、趣味に没頭できます。さらに客間が2つ。子ども家族が一度に泊まりに来ても対応できます。

 

庭は80平米あります。柴犬を飼い、夏休みには孫が走り回る。そんな光景が現実のものになろうとしていました。ところが、最初の夏から予想外の現実が待っていました。雑草です。きれいに草を抜いても、1カ月も放置していると、膝の高さまで伸びています。庭木も勢いよく枝を広げます。

 

「朝なら大丈夫だろう」

 

そう考え、午前7時から草むしりを始めました。しかし30分もしないうちに汗が噴き出し、息苦しくなりました。


「もう少しやれば終わる」

 

そう思って続けたものの、立ち上がった瞬間にめまいがしました。慌てて室内へ戻り、水を飲んで横になります。


「あれで倒れていたら誰にも気づかれなかった」

 

正夫さんは今でもそう振り返ります。

 

翌年は作業時間を短くし、その分、頻度を増やしました。それでも雑草は待ってくれません。近所から見える場所は特に気になりました。

 

庭をきれいに維持するだけで、こんなに疲れるとは――ずっと賃貸暮らしだった佐々木さん夫婦は、庭付きの生活がこれほど大変だとは思ってもみませんでした。

 

一度、プロにまかせたらどうなのか、見積もりを依頼すると剪定だけで年間8万円近くかかることがわかりました。草刈りも頼めば1回2万円前後。年に4回依頼すると、それだけで年間16万円です。頼めなくはない金額です。しかし収入は年金だけ。自分たちでできることなのに、あえてお金をかける――やはり抵抗がありました。

 

ある日、友人に言われました。

 

「老後はマンションのほうが楽。もっと年を取るとコンパクトな家のほうがよかったと後悔するぞ。今のうちに売るのも考えてみては」

 

その言葉に少し腹が立ちました。「せっかく買った家なんだから」と心の中で呟きつつ、自分でも無理をしている自覚はあったといいます。