老後の不安を解消するために、現役時代から貯蓄に励み、「可能な限り働きたい」と希望する人は少なくありません。しかし、十分な資産と年金を手にしたはずの生活で、予期せぬ虚無感に襲われるケースもあります。なぜ豊かなはずのセカンドライフがため息に変わるのか。ある男性の事例から、資産形成の落とし穴を探ります。

「お金を使う能力」の減退…統計が示す高齢者世帯の消費の実態

佐藤さんの事例は、現代の高齢者世帯が直面する「資産はあるが、消費できない」という構造的な課題を浮き彫りにしています。

 

総務省統計局『家計調査(家計収支編)2025年平均』の結果によると、世帯主が70歳以上の世帯の月平均消費支出は、60代の世帯と比較して約20%以上減少しています。特に、旅行や外食、レジャーを含む「教養娯楽」への支出は、年齢階級が上がるごとに顕著に低減する傾向があります。

 

これは、収入や資産が十分であっても、加齢に伴う身体機能の低下や活動範囲の縮小が、消費の選択肢を奪っている実態を示しています。

 

また、厚生労働省『厚生労働白書』等のデータに基づく健康寿命(日常生活に制限のない期間)は、最新の推計値で男性が約73歳、女性が約75歳前後です。佐藤さんのように70歳までフルタイムで働いた場合、統計上、健康で自由に動ける期間はリタイア後わずか数年しか残されていない計算になります。

 

さらに厚生労働省『介護保険事業状況報告』などによれば、要介護・要支援の認定率(第1号被保険者)は、70~74歳で約2.9%にとどまりますが、75~79歳で約12.1%へと急増します。80~84歳で約26.2%、85歳以上では約60.1%に達するなど、75歳を境にリスクが跳ね上がるのです。

 

これらのデータからも、資産を「いつ、どの段階で使うか」という判断がいかに重要であるかがわかります。3,800万円という退職金を70代で保有していても、身体機能の低下や要介護状態への移行により、それを旅行や趣味などの活動に充てることが困難になるからです。

 

老後への備えとして蓄財や就労期間を延長することは、結果として身体的に活動可能な時期に資産を消費できない状況を招きかねません。健康寿命や要介護認定率の統計を考慮した、現実的な「資産の取り崩し計画」が今、求められています。