(※写真はイメージです/PIXTA)
毎日実家に通う次女と、たまにやってくる長女
認知症の母を、実家の近くに住みながら在宅介護で支える次女のレイコさん(仮名/61歳)。そんな彼女にとって、遠方に住む長女・シュウコさん(仮名/64歳)の帰省は、頼もしくもあり、少しだけ憂鬱な時間でもありました。
再雇用で現在も元気に働くシュウコさんは、たまにしか実家に顔を出せない分、「私が来たときくらいは!」と非常にエネルギッシュです。今回も、到着するなり実家の台所を占拠し、腕を振るいはじめました。料理上手なシュウコさんは、次々と手際よくご馳走を仕上げていきます。ハンバーグにアスパラの肉巻き、ホワイトソースから手作りしたグラタン、餃子……。
「お父さんに栄養をつけてもらわなきゃ。レイコもいつも大変でしょ? これ、全部小分けにして冷凍しておくから、レンジでチンするだけでいいわよ!」
満足そうに微笑むシュウコさん。レイコさんは、その勢いに押され、「……ありがとう」としかいえません。本当は、最近の父は食が細くなり、こうした「凝った料理」を重たがるようになっていることを知っていましたが、姉の純粋な善意を前に、本音を飲み込みました。
また、金銭面に関してもモヤモヤが残ります。今回姉が作ってくれた料理は、材料費だけで1万円は超えているでしょう。
両親は、元会社員の父の厚生年金と母の基礎年金を合わせて、月々約23万円の年金受給があります。総務省「家計調査(家計収支編)2023年(令和5年)」によれば、高齢者夫婦無職世帯の1ヵ月の実収入平均は約24万6,000円であり、両親は平均的な水準で、質素に暮らす分には蓄えを崩さずに済んでいます。しかし、在宅介護の細かな消耗品費や医療費が嵩むなか、シュウコさんの「差し入れ」は、レイコさんからみれば少し温度差を感じるものでした。
「レンジで温めるだけ」すら、父には高すぎるハードル
シュウコさんが「やり遂げた」という晴れやかな顔で帰路についた、その日の夕方。レイコさんは父に、「冷凍庫にお姉ちゃんが作ってくれたグラタンがあるよ」と伝えました。
しかし92歳の父は、ぼんやりと眺めるだけ。
「……いや、いらない。お前、半分持って帰ってくれないか」
父の言葉に、レイコさんの胸が少しだけ痛みます。シュウコさんにとっては「チンするだけ」の簡単な作業も、92歳の父にとっては、電子レンジのボタンを選び、熱い皿を取り出し、食べ終えたあとの油汚れを洗うことさえ、億劫な作業なのです。いや、本当はできるのかもしれませんが、なにより父は「いつもと違うこと」をすることに抵抗があるのでしょう。
「年を取ると、もうそんなに食べられないんだよ。うどんとか、お茶漬けくらいでいい。それで十分なんだ」
毎日顔を合わせているレイコさんには父も遠慮がない分、はっきりといいます。