(※写真はイメージです/PIXTA)
理想の家づくりが「終わりのない労働」へ
東京都内・大手メーカーを定年退職した松本和夫さん(60歳・仮名)は、長年の夢だった「地方でのスローライフ」を実現するため、退職金2,500万円の大部分を手に、地元にも近い、九州地方で古い民家を購入しました。物件価格は400万円。築60年超の建物でしたが、柱の太さに惚れ込み、「残りの資金があれば、自分の手で世界に一つだけの城がつくれる」と浮足立っていました。
「業者に見積もりを取ったら、フルリノベーションで1,500万円と言われました。それなら自分でやったほうが安上がりだし、何より面白そうだと思ったんです。日曜大工の延長で、なんとかなるだろうという甘い考えがありました」
松本さんは移住後、毎日10時間近くを作業に費やしました。床板を剥がし、断熱材を敷き詰め、キッチンを解体する。当初は、SNSにアップする進捗状況への称賛コメントが原動力になっていました。しかし、作業開始から3ヵ月が経過したころ、計算が狂い始めます。
「まず、資材価格が想定の1.5倍に跳ね上がっていました。さらに、古い家特有の『開けてみないとわからない不具合』が次々と見つかったんです。シロアリの被害が骨組みまで及んでおり、素人の手には負えない部分が多発しました」
結局、構造に関わる部分は地元の工務店に頼まざるを得なくなりました。さらに、独学のDIYは効率が悪く、やり直しも頻発。慣れない重労働で松本さんは腰を痛め、一時期は動くこともままならなくなりました。半年が経過した頃、松本さんが手にしたのは、完成の見えない家と、想定外の出費で想定以上に減る預金残高。
「一番絶望的なのは、妻との関係悪化。完成するまではと、仮住まいの不便なアパート生活を強いてしまった。妻からは『私たちは家を直すために移住したの?』と皮肉を言われる毎日。趣味のつもりで始めた『世界に一つだけの家づくり』が、いつの間にか終わりの見えないものになってしまった」
現在、松本さんの家はリビングこそ形になったものの、風呂やトイレは工事が止まったまま。理想を求めた結果、老後資金の多くを「住めない家」につぎ込んでしまった、しかも、道半ばという、何とも厳しい状況に追い込まれています。
