長引く物価高騰に直面するなか、私たちの生活を支える賃金の動向に注目が集まっています。厚生労働省が発表した最新の調査結果によると、多くの企業が賃金改定に踏み切っている実態が明らかになりました。しかし、数字上の「昇給」が必ずしも生活のゆとりに直結しているとは限らないのが現実です。ある40代男性のケースから、賃上げの裏側に潜む企業の苦悩と、労働者が直面する家計の厳しさをみていきます。
給与月5,000円アップも絶望…〈月収50万円〉中小企業勤務・45歳男性が嘆く「賃上げ」の虚しさ。厚労省調査で見えた「手取りのリアル」と格差 (※写真はイメージです/PIXTA)

賃上げ実施企業は9割を超えるが……

厚生労働省「令和7(2025)年賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、令和7年中における賃金改定の実施状況について、「1人平均賃金を引き上げた・引き上げる」企業の割合は91.5%に達しました。これは前年の91.2%をわずかに上回る水準です。一見すると、日本企業の多くが賃上げに積極的なように見えます。

 

しかし、企業規模別に詳しく見ると、その足並みには明らかな差が存在します。

 

●5,000人以上の大企業:引き上げた企業の割合は98.9%

●100〜299人規模の企業:89.7%にとどまる

 

また、1人平均賃金の改定額についても、全体平均は13,601円ですが、5,000人以上では16,784円、100〜299人では10,264円と、約6,000円もの開きがあります。佐藤さんが感じていた「昇給の実感の乏しさ」は、こうした規模間格差という背景からも裏付けられています。

 

賃上げの内容を精査すると、さらに厳しい実態が見えてきます。多くの労働者が期待する「ベースアップ(ベア)」、すなわち賃金表そのものを書き換えて水準を引き上げる施策を実施できた企業は、定期昇給制度がある企業のうち57.8%にとどまります。労働組合がない企業に限れば、ベアを実施した割合は49.4%と半数を割り込み、依然として定期昇給のみ、あるいはそれすら困難な状況にある企業が少なくありません。

 

企業が賃金改定を決定する際に何を重視したのか。この点に、現在の日本経済の実情が現れています。最も多かったのは「企業の業績」で41.7%(前年35.2%)ですが、注目すべきは「労働力の確保・定着」の17.0%です。佐藤さんが感じた「上げなければ人が辞める」という危機感は、統計上でも二番目に大きな理由として表れているのです。

 

一方で、企業活動の状況(業況)について「良い」と答えた企業は35.3%にとどまり、半数以上の51.2%が「それほど良くない」と回答しています。それにもかかわらず、「原材料費・経費」が「増加」したと回答した企業は79.0%に上ります。

 

多くの企業にとって、今回の賃上げは「余裕があるからの分配」ではなく、「コスト増と人手不足に抗うための苦肉の策」という側面が強いことが、これらの数値から読み取れます。

 

日本の給与体系は今、過去10年以上の増加傾向のなかでも特に大きな転換点を迎えています。令和7年の調査で見えた「4.4%」という高い改定率は、企業の体力を奪いかねない諸刃の剣でもあるのです。私たちが真の意味で豊かさを実感するためには、単なる数字の積み上げではなく、中小企業の生産性向上や、物価上昇を上回る実質賃金の安定的な確保が急務といえるでしょう。