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「潤沢な資産」があっても埋まらない、高齢夫婦の深い溝
厚生労働省『令和5年版 厚生労働白書』や『国民生活基礎調査』などを見ると、高齢期の生活不安は、収入や年金といった経済面だけで語りきれるものではないことがわかります。
たとえば『国民生活基礎調査』では、高齢単身女性の相対的貧困率が高い水準にあることが示されており、経済的基盤の脆弱さは依然として大きな課題です。一方で、『令和5年版 厚生労働白書』では、高齢期における孤立や人とのつながりの希薄化が、生活の質や心身の健康に深刻な影響を及ぼす問題として繰り返し指摘されています。
実際、内閣府が令和5年に実施した『孤独・孤立に関する調査』では、強い孤独感に影響を与える要因として「家族との死別」が27.0%と最も多く挙げられています。特に女性の場合、長年連れ添った配偶者との別離が、生活の基盤だけでなく、心の居場所の喪失として受け止められやすい傾向があります。
これらの結果を踏まえると、高齢期の女性にとっては、経済的な不安と同時に、配偶者との関係性や精神的な支えを失うことへの不安が重なり合って存在していると考えられます。
また、国立社会保障・人口問題研究所『全国家庭動向調査』などによると、婚姻期間が長くなるにつれ、女性が配偶者に求める役割は、経済的な支えから、対話や理解といった情緒的な支援へと比重を移していく傾向が見られます。実際、中高年層では、配偶者に「気持ちを理解してくれること」などを重視する回答が過半数を占めています。
一方で、年金額や世帯収入といった「数字上の安心感」が、夫婦に同じ意味で受け取られているとは限りません。内閣府『国民生活に関する世論調査』では、所得に対して不満がある人が68.0%に上る一方、生活全体の満足度は必ずしも所得の不満に比例して低下していないことも示されています。
これらの結果から、経済的な余裕が一定程度あっても、情緒的な信頼や対話が欠けた関係では、その「安心」は夫婦の間で共有されにくいことがうかがえます。
「夫が『俺の金だ』と言い張るなら、もう勝手にすればいい。資産がこれだけあれば、無理に離婚しなくても私は私で楽しくやっていける。夫が何をしようが、今の私にはもう関係のないことです」
豊かな老後を実現する資産1億円がもたらしたのは、夫婦の絆ではなく、皮肉にも「相手を必要としない無関心」でした。