35年にわたる住宅ローンを完済し、ようやく手にした「安住の地」。 しかし、長年の大仕事を終えた達成感に浸る間もなく、多くの高齢者を絶望させる「想定外の通知」が届くケースもあります。老朽化が進むマンションに待ち受ける大規模修繕の先に待っているものとは? ある男性の事例を通じ、知っておくべき「公的な救済策」についてみていきます。
やっと35年ローンを終えたのに…年金月17万円・68歳の男性に届いた「300万円の請求書」。修繕不能でスラム化寸前のマンションを救った一手とは? (※写真はイメージです/PIXTA)

完済の喜びを凍りつかせた「総会決議」の重み

「最後の手続きを終え、銀行から抵当権抹消の書類が届いたときは、ようやく長いマラソンのゴールテープを切ったような気持ちでした。これで正真正銘、この家は自分のものになったんだと。ところが、そのわずか数ヶ月後ですよ。総会で悪夢のような決定がなされたんです」

 

3LDKの分譲マンションに住む高橋和也さん(68歳・仮名)。 30代前半で当時新築だったマンションを購入した高橋さんは、60歳の定年時も、手元の現金を減らさないようあえてローンを継続していました。

 

そして68歳、嘱託勤務を完全に終えるタイミングで残債を一括返済。 現在、生活のベースとなる年金は月17万円です。来年65歳を迎える妻の年金と合わせると、世帯収入は月25万円ほどになるといいます。「ローン返済も片付いて、私たち夫婦の老後は安泰と思っていた」と、当時は振り返ります。

 

しかし、現実は厳しいものでした。 完済とほぼ同時期に開催された管理組合の総会で、議題に上がったのは「第2回大規模修繕工事」の資金不足問題です。 外壁のタイル剥落や屋上の防水劣化は放置できないレベルに達していましたが、長年、住民の反対で積立金の値上げを先送りにしてきたツケが回ってきたのです。

 

「総会では、工事をしなければ建物の安全が保てず、資産価値も暴落すると説明されました。総額で2億円を超える工事です。 そして突きつけられた解決策が、『不足分を補うため、専有面積に応じて1戸あたり200万~350万円程度の一時金を拠出する』というものでした。 その場では『やむを得ない』という空気が広がり、暫定的に承認されました。しかし、説明会や回覧が進むにつれ、『そんな金額は払えない』という声が次々と上がり、決議は事実上、宙に浮いた状態になっていったのです」

 

残った退職金と預貯金を合わせれば、300万円を払うことに問題はありません。しかし、今後の医療費や介護費用などを見据えると、300万円の出費はかなりの重みです。

 

「ローンを払い終えたばかりですから、すぐに『300万円ですね、わかりました』とは言えませんよね」

 

さらに実際に集金が始まると、半数近くの世帯が支払えないことが判明しました。 必要な資金が集まらなければ工事は着工できず、マンションはボロボロのまま放置される――。 危機感を募らせる中、理事会のメンバーや管理会社と相談を重ねる過程で、管理組合が主体となって利用できる公的融資制度があることを知りました。

 

「個人が一度に300万円を払うのが無理なら、管理組合が法人として国から借り入れを行い、各戸はそれを月々の分割払いで返済していけばいい。 さらに、一定の条件を満たす高齢世帯については、毎月の返済を利息分に抑え、元金は将来、住戸売却や相続時に精算する仕組みがあることも分かりました」

 

この提案は、支払いを諦めていた高齢住民たちに支持され、改めて開かれた総会では圧倒的多数で再合意が成立。 全員が満足したわけではありません。それでも、「一時金を払えずに修繕を諦めるという最悪の事態は避けることができました」と、高橋さんは語ります。