老後の備えとして「貯蓄」は不可欠ですが、数字上の安心が必ずしも幸福に直結するとは限りません。現役時代から懸命に働き、贅沢を排して資産を築き上げた結果、十分すぎるほどの老後資金を手にしたはずが、深い後悔に苛まれるケースは珍しくないのです。
「3万円の高級寿司」も「スーパーのパック寿司」も大して変わらない……〈貯金5,000万円〉〈年金月27万円〉70代夫婦が陥った「質素倹約」の末路。老後安泰も不幸という本末転倒 (※写真はイメージです/PIXTA)

データが示す「資産を持ちながら消費できない」高齢者の実態

総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支は、実収入25万2,818円に対して、消費支出(生活費)25万6,521円、非消費支出(税金・保険料)3万0,356円で、毎月約3.4万円の不足となっています。平均的な世帯ではこの不足分を補填するために貯蓄を取り崩しており、これが一般的な高齢者夫婦の実態です。

 

一方で金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和6年)』では、70歳代の金融資産保有額の平均値は1,923万円(中央値800万円)ですが、3,000万円以上の資産を持つ世帯が約2割存在しています。

 

十分な資産がありながら、なぜ田中さんのように支出を切り詰めてしまうのでしょうか。同調査で金融資産の保有目的を尋ねると、「病気や介護への備え」が常に上位を占めています。つまり、多くの高齢者にとって資産は「楽しむための原資」ではなく、いつ終わるか分からない長寿リスクに対する「備え」であることが大前提なのです。

 

一方で、内閣府『令和6年度年次経済財政報告』によると、高齢者の34%が「財産を使い切りたい」、31%が「老後の世話の有無にかかわらず、財産を残したい」、15%が「老後の世話を条件に財産を残す」と回答。高齢者は資産を「使う」か「残す」かの間で、揺れ動いているといえるでしょう。

 

老後資金の確保はリスク管理として必要不可欠ですが、過剰な節約習慣が「豊かな老後」を奪ってしまう側面は無視できません。資産の拡大と同じくらい、適切なタイミングでの「消費」と「投資」が、後悔のない老後には不可欠です。