老後の備えとして「貯蓄」は不可欠ですが、数字上の安心が必ずしも幸福に直結するとは限りません。現役時代から懸命に働き、贅沢を排して資産を築き上げた結果、十分すぎるほどの老後資金を手にしたはずが、深い後悔に苛まれるケースは珍しくないのです。
「3万円の高級寿司」も「スーパーのパック寿司」も大して変わらない……〈貯金5,000万円〉〈年金月27万円〉70代夫婦が陥った「質素倹約」の末路。老後安泰も不幸という本末転倒 (※写真はイメージです/PIXTA)

高級寿司を食べながら……ショックでした 

大手メーカーのエンジニアとして働き、妻の和子さん(70歳・仮名)と二人三脚で歩んできた埼玉県在住の田中徹さん(72歳・仮名)。現在、夫婦の年金額は月27万円。退職金と積立貯蓄を合わせた預貯金は約5,000万円にのぼります。老後資金としては盤石ですが、徹さんの口から出るのは「失敗した」という言葉ばかりです。

 

「バブルのころ、私はちょうど30代後半だったと思いますが、同僚がゴルフや新車にお金を使っているのを冷ややかな目で見ていました。『あんな無駄遣いをして、老後はどうするんだ』と。私たちは外食を控え、エアコンの温度設定も厳守し、こまめに電気は消し、家計簿の端数まで合わせてきました。その結果、予定通り5,000万円貯まった。でもお金があって得られるのは、安心だけでした」

 

徹さんの後悔は、長年の節約生活で「お金を払って楽しむ」という感覚が麻痺してしまったことにあるといいます。

 

「先日、妻の祝いでひとり3万円の寿司屋に行きました。確かに良いネタでしたが、食べている最中に『スーパーのパック寿司なら何個買えるか』と、ふと頭をよぎってしまった。正直なところ、味の違いもそれほど分からず、むしろ高いお金を払ったことへの落ち着かなさばかりが残ったんです。せっかくの食事も、私にとってはパック寿司を食べている時とそれほど変わらない満足度しか得られませんでした」

 

和子さんも、クローゼットに並ぶ古い服を眺めてこう漏らします。

 

「昔は、お金さえあれば素敵な服を着て出かけられると思っていました。でも、どうしても自分で『無駄遣いだ』と手をとめてしまうんです。節約を頑張りすぎて、自分たちのためにお金を使う気になれない。近所のスーパーに行く以外、使い道がないんです」

 

田中さん夫婦は、資産を守り抜くことには成功しましたが、その過程で「お金を払って得る喜び」を失ってしまったのです。

 

「子どもや、孫のためのお金を貯めてきた……そう思えば、少しは気が晴れる、今日この頃です」