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24時間誰とも話さない日常…「無縁社会」の当事者となった69歳の現実
「昨日の朝から、一度も声を出していないことにふと気づきました。喉が張り付いたような感じがして、慌てて咳払いをしたんです。自分はこのまま、誰にも知られずひっそりと死んでいくのではないか。そんな思いが頭を離れません」
東京都内の分譲マンションで一人暮らす佐藤剛さん(69歳・仮名)。3年前、40年以上連れ添った妻の美智子さんを病気で亡くしてから、佐藤さんの生活は一変しました。
生活のベースとなる年金は月17万円ほど。介護保険料などを差し引いた手取りは月15万円程度で、一人暮らしなら十分な金額です。「経済的には特に不安はない」と言いますが、独り身の部屋に漂う沈黙が何よりも怖いと吐露します。
かつての剛さんにとって、自宅は美智子さんが整えてくれる安息の場所でした。しかし、家計管理や近所付き合いのすべてを妻に任せきりにしていたため、死別後は地域との繋がりが皆無であることに気づかされました。
「ゴミ出しのルールすらおぼつかず、近所の人に挨拶をしても、会釈をされるだけで会話にはなりません。現役時代は仕事しかしてこなかったから、趣味らしい趣味もありません。会社を辞め、さらに妻を失った私には、近くに話し相手が一人もいないんです」
地方で暮らす長女からは週に一度ほど、生存確認を兼ねた電話がかかってきます。しかし、お互いの生活リズムも異なり、電話口で「変わりはないか」「元気だよ」と数分話すだけで終わってしまいます。心配をかけたくないという意地もあり、心の奥にある寂しさや恐怖までは伝えられません。
ある日、剛さんは自宅の風呂場で足を滑らせ、転倒しそうになりました。その際、頭に浮かんだのは「もしここで倒れて動けなくなったら、いつ発見されるだろうか」という具体的な恐怖でした。
「死ぬことより、誰にも気づかれずに放置されることが怖いんです」
佐藤さんの言葉は、かつての中流階級が陥る「見えない貧困」ならぬ「心の貧困」を象徴しています。
「テレビで孤独死のニュースを見るたびに、他人事とは思えなくなりました。携帯電話の連絡先を見ても、用件なしで電話をかけられる友人は一人もいません。スーパーのレジで店員さんと一言二言やり取りするだけが、一日の会話のすべてということも珍しくありません。娘には娘の生活がありますし、いつまでも頼るわけにはいかない。でも、このまま独りで朽ちていくのを待つだけなのは、あまりに虚しいです」
社会から切り離されたような感覚。それが今の剛さんの日常です。