定年退職という人生の節目に手にする退職金は、長年の労働に対する報いであると同時に、老後の生活を支える大切な原資です。 この資金を元手に「第2の人生」として起業を選択する人も珍しくありません。 とはいえ、思い描いた通りの成功を手にするためには、高いハードルを越えなければなりません。 ある男性のケースを見ていきます。
夢見た俺がバカだった…〈退職金1,600万円〉で社長になった62歳元会社員、わずか15ヵ月で「破産」の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

シニア起業の倒産動向と、求められる「徹底的なコスト管理」

日本政策金融公庫が発表した「シニア起業家の実態に関する調査(2024年度版)」によると、シニア層の起業動機は「長年の経験や知識、人脈を活かしたい」が常に上位を占めています。 社会貢献や生きがいを求めて50代以降の創業が増加傾向にあり、医療・福祉やコンサルティング業など、専門性が必要とされる分野での起業が目立ちます。

 

しかし、同調査を深掘りすると、開業後に「集客・販路開拓」に苦労している層が約半数に上り、現役時代のネットワークが期待通りに機能していない実態が見て取れます。 また、中小企業庁の「2025年版中小企業白書」では、シニア起業家は他世代に比べて「自己資金」の投入額が多い傾向にあり、それが失敗時のダメージを深刻化させていると指摘されています。 斎藤さんのような専門サービス業において、破綻を招く要因は主に3つ挙げられます。

 

■過度な初期投資と固定費

実店舗がなくとも、一等地のオフィスや高額なシステム開発、過度なWebマーケティング費用など、身の丈に合わない支出が資金を奪います。

■サンクコストへの執着

一度投じた数百万円を「もったいない」と感じ、見込みのない事業にさらなる追加資金を投入して傷口を広げてしまいます。

■「組織人」からの脱却不足

自身の手を動かして新規顧客を泥臭く獲得するより、外注や仕組み作りに頼ろうとしてしまい、資金を使い果たすまでの時間を早めます。

 

日本政策金融公庫の「新規開業実態調査」では、成功しているシニア起業家は「借入を最小限に抑え、自宅拠点などで固定費を徹底的に削った層」であることが示されています。

 

一度失った老後資金を、60代から取り戻すことは困難です。 退職金を全額投入するような「背水の陣」ではなく、まずは自身の貯蓄を切り崩さない範囲で小さく始める。 それが、第2の人生を「破産」という末路で終えないための唯一の選択肢といえそうです。