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定年後も働くと決めた男性の、もうひとつの決断
都内在住の佐々木浩一さん(59歳・仮名)。大学卒業以来勤める会社で管理職として奮闘する日々で、現在の月収は55万円。本人曰く、「可もなく不可もなく」というのが自己評価です。
定年を1年後に控え、同期の間では定年後の働き方について話題に挙がることも多いといいます。 「同期のほとんどが再雇用を希望していますね。定年を機に他に移ったり、仕事を辞めたりする人は、ほんのわずかです。私も再雇用を希望しようと考えています」
一方で、佐々木さんは「他の人とは違う決断」をしているのだとか。それは「年金の繰上げ受給」です。老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、原則として65歳から受給を開始できます。しかし、希望すれば手続きによって60歳~75歳の間で受け取り時期を調整することが可能で、60歳から64歳の間に早めて受け取ることができる制度が「繰上げ受給」です。
1ヵ月早めるごとに0.4%減額となり、1年(12ヵ月)早くもらうと4.8%、5年(60ヵ月)早くもらうと24%の減額となります。この減額率は65歳以降も一生続きます。“年金が減る”ため、生涯受給額では「損をする」と言われがちですが、佐々木さんの決意は固いようです。
「私は年金、繰り上げますよ。だって、長く生きられそうもないから」
まさかすぎる理由をさらりと話す佐々木さん。聞けば、佐々木さんの父は56歳で心筋梗塞により急逝。母も62歳で病気でこの世を去りました。さらに遡れば、祖父も50代前半で亡くなっています。佐々木さん自身の血縁者が辿ってきた「短命の系譜」が、繰上げ受給を決断させました。
「ねんきん定期便などで確認したところ、65歳から月18万円ほどの年金がもらえるようです。24%マイナスなので、60歳からは月15万円強、もらえることになります」
65歳で受け取るよりも月2万5,000円ほど少なくなる――それでも佐々木さんはお構いなしです。
「昔は55歳が定年だったと記憶していますが、父は猛烈に働いて、ホッとひと息ついたらすぐに亡くなってしまった。今ほど平均寿命が長くない時代ではあったけれど、みんな短命でしたね。その血を継いでいると考えると、自分も……と覚悟しないといけないと考えています」
佐々木さん自身、現在の健康状態に大きな問題はありません。しかし50代後半に入り、ふとした瞬間に自身の死を意識することが増えたといいます。もちろん、家系的に短命だったからといって、本人が長生きする可能性も十分にあります。それでも繰上げ受給を選ぶというのでしょうか。
「もし長生きできたら、ボーナスだと思っていますし、そうなった場合のための蓄えもある。それよりも、もらえるうちにもらって、後悔したくないという気持ちのほうが大きいんです。それが私なりに納得できる答えなんです」
佐々木さんは、繰り上げた年金を生活費に充てるのではなく、まずは趣味の旅行など、夫婦で過ごす時間のために使いたいと話しています。
「月収55万円の今は、お金に困ってはいません。だからこそ、年金という制度を使って『早めに自分を解放してあげたい』という気持ちが強いのかもしれませんね。世間が言う『正解』が、必ずしも自分の人生の正解ではない。定年を前に、その思いは確信に変わりました」