年金の受給開始年齢をいつにするか。多くの現役世代やシニア層を悩ませるこの問題ですが、制度上は最大75歳まで「繰下げ」が可能となり、受給額を大きく増やす選択肢も用意されています。しかし、現場で働くシニアたちの声を聞くと、必ずしも「増額」だけが正解ではないというリアクション。ある男性のケースから、受給開始時期に関する日本人の選択の傾向や、繰下げ受給のメリット・デメリットについてみていきます。
年金の繰下げなんてしません!「月収28万円」「年金月18万円」64歳男性が断言した理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

統計から見る「年金受給」のリアル

繰下げ受給はなぜ選ばれないのか 佐藤さんのように「65歳からの受給」を選ぶ人は、統計上でも圧倒的な多数派です。 厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)受給権者数は3,756万人で、老齢年金の受給権者数はおよそ3,000万人。その平均受取額は月15万0,289円です。

 

さらに60~65歳未満で年金を受け取る「繰上げ」と、65歳以降に受け取る「繰下げ」の状況をみていくと、「繰上げ」は35万0,650人で全体の1.2%、「繰下げ」は54万8,635人で全体の1.9%。

 

過去5年をみてみても、繰上げ、繰下げともに増加傾向にあるものの、圧倒的に「本来受け取れる年齢で年金受給を開始」という人が多いというのが現状です。

 

【老齢厚生年金受給権者、繰上げ・繰下げ受給状況の推移】

2020年…繰上げ0.5%、繰下げ1.0%

2021年…繰上げ0.6%、繰下げ1.2%

2022年…繰上げ0.7%、繰下げ1.3%

2023年…繰上げ0.9%、繰下げ1.6%

2024年…繰上げ1.2%、繰下げ1.9%

 

ここで、改めて繰下げ受給の仕組みを整理しておきましょう。

 

繰下げ受給のメリット

受給を1ヵ月遅らせるごとに受給額が0.7%ずつ増額。65歳から5年遅らせて70歳から受給を開始すれば42%増、10年遅らせて75歳からにすれば84%増となります。この増額率は生涯変わりません。

 

繰下げ受給のデメリット

受給を遅らせている期間は、当然ながら年金収入がゼロになります。また、年金額が増えることで、所得税や住民税、国民健康保険料、介護保険料などの負担が増し、「額面ほど手取りが増えない」という現象も。さらに、受給開始後、増額分で元が取れる(65歳受給開始の総額を上回る)までには、受給開始から約12年前後かかるとされており、早期に亡くなった場合は受給総額が少なくなってしまいます。

 

65~69歳の就業率は52.0%、70~74歳の就業率は34.0%。高齢者の半数以上が、年金受給開始年齢以降も働いています。それにも関わらず、圧倒的に「65歳から年金を受け取る」という人が多いのは、「将来の年金増額」よりも「今の生活を安定させたい」という心理の表れと読み取れます。

 

それぞれの健康状態や家計の事情を鑑み、最も納得感のある「受給のタイミング」を模索した結果、「従来通り」という選択をしているようです。