(※写真はイメージです/PIXTA)
かつての「定年後の常識」が通用しないワケ
「昇給で給料はだんだん上がっていく」と考えていた中島さんの誤算は、「手取り額の増加」以上に「物価上昇」のスピードが加速していることです。1990年代から日本の平均給与が横ばいである一方、社会保険料は上がり続け、実質的な購買力は低下し続けています。家計の贅肉を削ぎ落とさず、過去の成功体験に基づいた見栄を維持し続けることは、老後の資金を前借りして生きているのと同義といえるでしょう。
また、退職金をあてにした老後設計は危険性が高いです。原因には、退職金水準の低下があります。厚生労働省の就労条件総合調査によると、大卒・大学院卒の定年退職者の退職金平均給付額は、この20年で激減していることがわかります。
2003年:約2,500万円
2023年:約1,900万円
20年で600万円以上、企業規模や条件によっては1,000万円近く減少しているのが現実です。かつては「退職金で住宅ローンを一括返済し、残りで老後資金を」というプランが可能でしたが、いまのミドル層にとって、退職金は「あればラッキーなボーナス」程度の位置づけになりつつあります。
そして、より深刻な問題となるのが、「インフレ」による現金の価値低下。仮に物価が毎年2%上昇し続ければ、現在の100万円は20年後に約67万円の価値しか持ちません。
FPと中島さんとのやりとりでこんな話がありました。「中島さん、あなたは100万円を預けて、20年後に33万円を没収される契約書にサインしますか?」「そんなバカな話があるわけないでしょう」「いいえ、あります。それが『インフレ下で現金を放置する』ということです。物価が2%上がり続ければ、あなたの100万円は20年後、実質67万円の価値にまで縮んでしまうんですから」
退職金という現金をただ銀行に寝かせておくだけでは、老後の生活水準は時間の経過とともに確実に目減りしていきます。中島さんが信じていた「退職金で逃げ切る」というモデルは、デフレという特殊な環境下でのみ成立した過去の遺物に過ぎないのです。