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「会社は自分を守ってくれる」という過信の代償
「まさか、自分がその対象になるとは夢にも思っていませんでした。どこかで『うちは大丈夫だろう』と高を括っていたんです」
とある中堅企業の企画職として勤めていた佐藤健一さん(49歳・仮名)は、当時の心境を語ります。当時の月収は50万円。妻と高校生・中学生の子どもの4人家族で、都内にマンションを購入して10年。
住宅ローンは2,000万円ほど残っていましたが、長年会社一筋で頑張ってきた自負もあり、自身の雇用が脅かされるなどとは微塵も考えていなかったといいます。
転機は突然訪れました。ある日、全社員のメールボックスに「緊急Web会議」の通知が届きます。画面に現れた社長の口から告げられたのは、「事業の継続性を高めるため、財務体質を筋肉質にする必要がある」という、実質的なリストラ宣言である希望退職プログラムの実施でした。
「会議のチャット欄は紛糾していました。『経営陣の責任はどうなるんだ』と声を荒らげる同僚もいましたが、不思議と私は落ち着いていました。というよりも、どこか現実感がなかったのだと思います。むしろ『仕事のできない年配者が辞めれば、ポストが空いて昇進のチャンスが巡ってくるのではないか』とさえ考えていたのです」
希望退職の募集が始まると、社内の空気は一変しました。各部門の責任者が「誰を辞めさせるか」の数字に奔走しているという噂が広まり、昨日まで笑い合っていた同僚たちが互いに疑心暗鬼になる日々。
そんななかでも佐藤さんは「自分は必要な人材だ」という根拠のない確信を持ち、転職サイトに登録こそしたものの、具体的な応募には至りませんでした。
「初動で動いた優秀な層は、早々に好条件で他社へ決まっていきました。一方で私は『もう少し様子を見てからでも遅くない』と言い訳を重ね、状況を静観してしまった。それが最大の失敗でした」
やがて、会社からの肩叩きは佐藤さんの元にもやってきました。面談室で突きつけられたのは、これまでの貢献とは無関係な余剰人員としての宣告。
納得はいきませんでしたが、周囲の目が冷たくなっていくなかで、しがみつき続ける気力もありません。最終的には割増退職金に縋るようにして、退職を決意しました。
しかし、現実は厳しいものでした。昨今、ミドル世代の転職は珍しくなく、求人数も多い傾向にあります。しかし競争は激しく、希望する条件での再就職が簡単に決まるとは限りません。
「再就職が決まらないまま半年が過ぎて……割増で増えたはずの退職金は毎月のローン返済で減っていき、さらに長男の大学進学など大きな出費が重なり、あっという間になくなっていきました。気づけば、預金残高はゼロに近くなり、本当に焦りましたよ」
その後、条件通りとはいかないまでも、少し妥協した形で再就職が決まったそうです。