年度ごとに改定されている「年金額」。物価上昇などといった経済状況の変化に対応し、その価値を維持することを目的として「改定率」に基づく見直しが毎年度行われています。2025年度の年金額は前年の物価上昇を受けて増額したものの、マクロ経済スライドによる調整によって実質的には目減りとなりました。本稿ではニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が、年金額改定のルールのなかから、受給者世代だけでなく現役世代にも大きな影響を与える「マクロ経済スライドによる調整(年金財政健全化のための調整)」導入の経緯とその意義について詳しく解説します。
将来世代の給付低下を抑えるため少子化や長寿化に合わせて調整-年金額改定の意義と2026年度以降の見通し(2) (写真はイメージです/PIXTA)

5 ―― 当面の厚生年金(2階部分)の調整軽減:年金財政の状況を見極めるため調整率を抑えて適用

前述したように、年金財政の健全化に必要な措置(マクロ経済スライド)は、年金財政を健全化するために実施される。他方で、近年の年金財政は、積立金の運用結果が好調だったことなどから、想定よりも改善している。2024年に示された将来見通しでは、経済や人口の前提を組み合わせた全28ケースのうち17ケースにおいて、厚生年金(2階部分)へのマクロ経済スライドの適用は不要という結果になっている(図表9)。

 

(注1)将来見通しのうち、年金財政のバランスがとれるまで機械的に給付水準の調整を進めた場合の結果。 (注2)割愛した経済前提が、「1人当たりゼロ成長」の全7ケースでは、マクロ経済スライドを継続しても2055~2063年度に国民年金財政の積立金が枯渇し、完全な賦課方式に移行する結果になっている。 (注3)括弧内は、マクロ経済スライド停止後の給付水準が2024年度比でどの程度低下するか(割り算の結果)を示したもの。 (注4)入国超過数の前提は人数規模で示されているが、簡便に表示するために、出生や死亡の前提と同様に表記した。 (資料)社会保障審議会年金部会(2024年7月3日)資料2-1p.13。 図表11も同じ。
[図表9]年金財政の健全化に必要な措置(マクロ経済スライド)の停止年度の見通し(2024年公表) (注1)将来見通しのうち、年金財政のバランスがとれるまで機械的に給付水準の調整を進めた場合の結果。
(注2)割愛した経済前提が、「1人当たりゼロ成長」の全7ケースでは、マクロ経済スライドを継続しても2055~2063年度に国民年金財政の積立金が枯渇し、完全な賦課方式に移行する結果になっている。
(注3)括弧内は、マクロ経済スライド停止後の給付水準が2024年度比でどの程度低下するか(割り算の結果)を示したもの。
(注4)入国超過数の前提は人数規模で示されているが、簡便に表示するために、出生や死亡の前提と同様に表記した。
(資料)社会保障審議会年金部会(2024年7月3日)資料2-1p.13。
図表11も同じ。

 

しかし、これらの結果は、厚生年金財政自体の状況が好調なことだけでなく、将来の基礎年金(1階部分)の水準が低下することにも依存している。現在の年金財政は厚生年金財政と国民年金財政と基礎年金財政に分かれており、全員に共通する基礎年金の給付に必要な資金は、厚生年金財政と国民年金財政から拠出する仕組みになっている(図表10左)。そのため、将来の基礎年金(1階部分)の水準が低下すると、年金財政を長期的に見た場合、(1)厚生年金財政から基礎年金財政へ拠出する金額が少額で済み、(2)その結果として厚生年金へ充てられる財源が豊富になり、(3)厚生年金(2階部分)へのマクロ経済スライドを早期に終了できる(前提によってはマクロ経済スライドの適用が不要になる)、という構造になっている(図表10右)。図表9で、基礎年金(1階部分)のマクロ経済スライドの停止年度が厚生年金(2階部分)よりも遅いのは、この構造が影響しているためである。

 

[図表10]将来の基礎年金(1階部分)の給付水準が低下する構造的な要因