年度ごとに改定されている「年金額」。物価上昇などといった経済状況の変化に対応し、その価値を維持することを目的として「改定率」に基づく見直しが毎年度行われています。2025年度の年金額は前年の物価上昇を受けて増額したものの、マクロ経済スライドによる調整によって実質的には目減りとなりました。本稿ではニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が、年金額改定のルールのなかから、受給者世代だけでなく現役世代にも大きな影響を与える「マクロ経済スライドによる調整(年金財政健全化のための調整)」導入の経緯とその意義について詳しく解説します。
将来世代の給付低下を抑えるため少子化や長寿化に合わせて調整-年金額改定の意義と2026年度以降の見通し(2) (写真はイメージです/PIXTA)

3 ―― 年金財政健全化のための調整ルール(いわゆるマクロ経済スライド)

1|導入の経緯:2004年改正で保険料の引上げ停止とセットで導入

年金財政健全化のための調整ルール(マクロ経済スライド)は、年金財政が健全化するまで実施される仕組みである3。このルールは、2004年改正で導入され、2015年度から適用が始まった。

 

3 年金財政の健全化は、少なくとも5年に1度作成される約100年間の将来見通しにおいて、その約100年間の財政均衡が保たれ、かつ約100年後に一定程度(計算上は約100年後の支出の1年分)の積立金があると見込まれる状態を指す。

 

2004年の改正では、年金財政の基本的な仕組みが大きく変わった。2004年改正より前は、大まかに言えば、少子化や長寿化の進展にあわせて将来の保険料を引き上げ、給付水準を維持する仕組みだった。しかし、2002年に公表された試算では、当時の給付水準を維持するには厚生年金の将来の保険料を当時の2倍近い水準(労使合計で年間給与の23.1%)へ引き上げる必要がある、という結果になった(図表2左)。

 

そこで、2004年改正では、将来の企業や現役世代の負担を考慮して保険料(率)の引上げを2017年に停止し4、その代わりに将来の給付水準を段階的に引き下げて年金財政のバランスを取ることになった。この給付水準を引き下げる仕組みが年金財政健全化のための調整ルールであり、「マクロ経済スライド」と呼ばれるものである。この仕組みは年金財政が健全化するまで続くが、年金財政がいつ健全化するかは今後の人口や経済の状況によって変わる(図表2右)。

 

4 厚生年金の保険料率は18.3%で固定された。国民年金の保険料(額)は2017年度に実質的な引き上げが停止され、以降は賃金上昇率に応じた改定のみが行われている。この改定は、厚生年金において保険料率が固定されても賃金の変動に応じて保険料の金額が変動することに相当する仕組み、と言える。

 

(注1)図表左では、月額ベースを1.3で割って総報酬ベースと接続。 (注2)図表右の各線は、経済前提(色で区分)や出征の家庭(線種で区分)が異なる場合の結果を示している。 (資料)厚生労働省「年金改革の骨格に関する方向性と論点」、同「財政検証詳細結果」等より筆者作成。
[図表2]保険料率(厚生年金)の推移と、今後の給付水準の見通し(2024年公表の将来見通し) (注1)図表左では、月額ベースを1.3で割って総報酬ベースと接続。
(注2)図表右の各線は、経済前提(色で区分)や出生の仮定(線種で区分)が異なる場合の結果を示している。
(資料)厚生労働省「年金改革の骨格に関する方向性と論点」、同「財政検証詳細結果」等より筆者作成。

 

2|仕組みの概略:少子化や長寿化という人数の変化の影響を、毎年の年金額(単価)の見直しで吸収

この仕組みでは、原則として、現役世代の減少と引退世代の長寿化に連動して、年金額の改定率が調整(実質的に削減)される。

 

この仕組みは、次のように解釈できる。まず、少子化が起こると保険料を払う加入者の数が減るため、年金財政にとっては保険料収入が減ることになる。そこで、加入者の減少に応じて年金額を調整すれば、保険料収入の減少に合わせて給付費を抑制することになる。また、長寿化が進むと個々の受給者が長く生き、結果として受給者数が増えるため、年金財政にとっては支出である給付費が増えることになる。そこで、寿命の延びに応じて毎年の年金額を調整すれば、受給者の増加に合わせて給付費を抑制することになる。

 

つまり、少子化や長寿化という人数の変化の影響を、毎年の年金額の見直し、いわば単価の調整で吸収する、という仕組みになっている。こういった形で少子化や長寿化の影響を吸収するため、年金財政の健全化が進んでいく。