年度ごとに改定されている「年金額」。物価上昇などといった経済状況の変化に対応し、その価値を維持することを目的として「改定率」に基づく見直しが毎年度行われています。2025年度の年金額は前年の物価上昇を受けて増額したものの、マクロ経済スライドによる調整によって実質的には目減りとなりました。本稿ではニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が、年金額改定のルールのなかから、受給者世代だけでなく現役世代にも大きな影響を与える「マクロ経済スライドによる調整(年金財政健全化のための調整)」導入の経緯とその意義について詳しく解説します。
将来世代の給付低下を抑えるため少子化や長寿化に合わせて調整-年金額改定の意義と2026年度以降の見通し(2) (写真はイメージです/PIXTA)

1 ―― 本稿の問題意識:マクロ経済スライドの意義を確認する

年金額は年度ごとに改定されている1。2025年度の年金額は、前年の物価上昇を受けて+2.7%増額されたが、同時に、マクロ経済スライドによる調整(2025年度は-0.4%)により実質的には目減りとなっている。また、2026年1月には、2026年度分の年金額が公表される見込みであり、物価上昇が続く中で、その動向が注目される。

 

1 年金は原則として2か月分ずつ支給される。改定直後の4~5月分は、6月15日(この日が土曜や日曜の場合は直前の金曜日)に振り込まれる。

 

そこで本稿では、年金額改定のルールのうちマクロ経済スライドによる調整(年金財政健全化のための調整)について、意義や経緯を確認する。

2 ―― 改定ルールの全体像:本来のルールと年金財政健全化のための調整ルールの2つを適用

公的年金の年金額は、経済状況の変化に対応して価値を維持するために、毎年度、金額が見直されている。この見直しは改定(またはスライド)と呼ばれ、今年度の年金額が前年度と比べて何%変化するかは改定率(またはスライド率)と呼ばれる。ただ、現在は年金財政を健全化している最中であるため、年金額の改定率は、常に適用される改定率(以下、本来の改定率)と年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド、基本的にマイナスの値)を組み合わせたものとなっている(図表1)。

 

(注1)本稿では変化率(%)の加減算で表しているが、厳密には1を基準とした値の掛け算で計算される。 (注2)年金財政健全化のための調整率(マクロ経済スライドのスライド調整率)は、少子化や長寿化の影響で基本的にマイナス。2016年の法改正で、単純に計算される調整率がプラスになった場合にはゼロ%に置き換えることになった。
[図表1]年金額改定ルールの全体像 (注1)本稿では変化率(%)の加減算で表しているが、厳密には1を基準とした値の掛け算で計算される。
(注2)年金財政健全化のための調整率(マクロ経済スライドのスライド調整率)は、少子化や長寿化の影響で基本的にマイナス。2016年の法改正で、単純に計算される調整率がプラスになった場合にはゼロ%に置き換えることになった。

 

本来の改定率は年金額の実質的な価値を維持するためのものであるため2、調整率の分だけ、年金額の実質的な価値が目減りすることになる。

 

2 本来の改定率については、別稿「年金額改定の本来の意義は実質的な価値の維持:年金額改定の意義と2026年度以降の見通し (1)」を参照。