「楽して稼げる仕事はない」大人は経験則で知っていても、社会に出る前の若者にとって、その境界線はあまりに曖昧です。近年、大学生をターゲットにしたトラブルは複雑化しています。本記事では社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が、Aさんの事例から、親子で共有すべきリスク管理を考えます。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
な、なにやってんだ…年収350万円の50歳父、上京した大学生息子から届いた「大企業内定」の吉報がクリスマスに一変。両親を凍らせた「戦慄のひと言」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

成功自慢のLINEグループと、膨らむ借金

その後、リーダー格の男が作成したグループLINEには、連日メッセージが飛び交いました。「1日で5万円稼げた!」「10万円ゲット!」次々とアップされる成功事例に焦燥感を煽られたAさん。2回目、3回目と勉強会へ参加することで、気付けばローンが増えていきます。

 

「バイト代だけじゃ返せない……」かといって、親に心配はかけたくない。Bさんのいうとおり、勧誘して紹介料をもらうしかないのか? しかしAさんは、「自分のように友達を借金漬けにすることはできない」と思い留まりました。地道にバイトをして少しずつ返そうと決めたのです。

 

そんななか、Aさんの就職活動が始まり、早々に大企業への内定が決まります。実家の両親は大喜びしてくれましたが、Aさんの心は晴れません。

 

ふとローンの明細をみると、金利は法律上限の年18.0%。借金はすでに30万円に膨らんでいました。単純計算でも、利息だけで年間5万4,000円も支払わなければならないことになります(30万円×18%=5万4,000円として試算)。銀行にお金を預けても利息などほとんどつかない(当時0.001%など)時代に、その数千倍、数万倍ものスピードで借金が増えていく契約をしていたのです。自分の無知を、Aさんは激しく悔やみました。

クリスマスを前に囁かれた「特別な仕事」

12月中旬。キャンパス内にはクリスマスツリーが飾られ、楽しげな音楽が流れる時期でした。

 

「もう抜けたい」Aさんは意を決してBさんに相談しました。するとBさんを通じて、リーダー格の男性から連絡が。「ローンが払えないなら、Aだけに『特別な仕事』を紹介してやるよ。荷物の配達を1回するだけで、20万円稼げるから」

 

たった1回の配達で20万円。その異常な金額を聞いた瞬間、Aさんの脳裏にニュースでみた「闇バイト」の文字が浮かびました。受け子、出し子、運び屋――。

 

「もしかして自分は、とんでもない犯罪グループに入ってしまったのでは?」

 

せっかく決まった大企業の内定が取り消されるかもしれない。いつか警察に捕まるかもしれない。街はきらびやかなイルミネーションに彩られ、楽しげな学生たちの笑い声が響いています。しかし、たった一人アパートに取り残されたAさんの心は、恐怖で凍り付いていました。