物価高騰と、伸び悩む賃金。そんな時代にあって、「節約」は多くの人にとって生活を守るための必須スキルとなっています。しかし、そのあまりの切実さから、いつしか節約が“目的”となり、度を越した行動に走ってしまう人がいるようで……。本記事では社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、Aさんの事例とともに行き過ぎた節約術に潜む、思わぬ落とし穴について解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
お金ないから公衆トイレで…年収280万円・43歳事務職の女性が友人に明かす「開いた口が塞がらない」度を超えた節約術【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

物価高に賃金が追いつかない…「節約」は、もはや国民的テーマに

総務省が公表した「2024年(令和6年)平均消費者物価指数の動向」によると、2020年を100とした2024年の平均総合指数は108.5。前年比2.7%の上昇となりました。日本の消費者物価指数はこの3年間で急激に上昇しており、長期のデフレから、インフレに転換したことがわかるでしょう。

 

一方、厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和6年分結果速報」では、実質賃金が2024年は-0.2%、2023年は-2.5%、2022年は-1.0%と、減少が続いています。物価の上昇に賃金の伸びが追いついていないのが現状です。

 

こうした状況下で、物価高への対策として多くの人が「節約」を実践しており、インターネットではさまざまな節約術が紹介されています。都心で暮らす43歳の会社員女性、Aさんも、節約に力を入れている一人です。

バブル期に青春、就職は氷河期…なかなか“報われない”半生

Aさんは大学入学を機に、地方の田舎から都心での暮らしを始めました。

 

学生時代はバブル景気の真っ只中でしたが、学費を親に頼っていたため、生活費は奨学金とアルバイトで賄う日々。サークル活動や飲み会で楽しむ同級生たちを横目に、取り残されたような思いを抱え、憧れの都会生活と現実とのギャップに悩むこともありました。

 

「就職したら、自分の給料で都会生活を楽しもう」

 

そう目標を切り替えて就職活動に励もうとした矢先、今度はバブルが崩壊。想定外の就職氷河期に突入します。「こんなはずではなかった……」と思いつつ、50社以上を訪問し、なんとか中小メーカーの一般事務職から一社の内定を得ることができました。

 

しかし、Aさんの年収は約280万円。景気の低迷で賃金は上がらず、奨学金の返済にも追われ、貯蓄もままなりません。Aさんは消費を減らすため、さらに節約に力を入れます。家賃5万円の古いアパートに住み、水道光熱費は極力使わない。食費は夕方の割引シールが貼られる時間を狙い、野菜は100円以内のものだけ。特に、季節に左右されないもやしは定番で、豆苗は3回ほど育てながら食べているといいます。