定年後の生活資金に不安を抱える人が多い昨今。しかし、現役時代における「マイホーム」という選択が、その後の人生を劇的に変えることがあります。かつては「やめておけ」と周囲から揶揄された物件が、20年の時を経て予想もしない資産価値を生み出すケースも珍しくありません。ある夫婦のケースをみていきます。
タワマンなんてやめておけ…20年前に「7,000万円・3LDKの湾岸タワマン」を購入した59歳サラリーマン、定年直前に「笑いが止まらない」ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

定年退職者の「資産格差」を生む不動産市場

高橋さんのようなケースは、決して珍しい話ではありません。

 

国土交通省『不動産価格指数(住宅)』の推移を見ると、2010年(平成22年)を100とした場合、2024年のマンション価格指数は約1.9倍~2倍近くまで上昇しています。特に東京都区部においてはその傾向が顕著であり、アベノミクス以降の低金利政策や円安による海外投資家の参入、共働きパワーカップルの需要増が価格を押し上げ続けてきました。

 

また不動産経済研究所の発表によると、2025年上半期(4~9月)の東京23区の新築マンション平均価格は1億3,309万円(前年同期比20.4%増)と過去最高を更新し、10月には1億5,313万円(過去2番目の高さ)を記録するなど、高騰が続いています。

 

これにより、新築価格に引っ張られる形で中古マンション市場も高騰。15年~20年前に「普通のサラリーマン」が無理なく購入できた物件が、今や「富裕層しか買えない」価格帯になっているのです。

 

かつては「持ち家か賃貸か」という論争において、持ち家には資産価値の下落リスクや流動性の低さがデメリットとして挙げられてきました。しかし、都心の好立地物件に関しては、長く住むだけで資産形成が完了するという現象が起きています。

 

一方で、退職金への課税見直しや年金受給額の実質的な目減りなど、定年後のキャッシュフローには不安要素が増えています。現役時代に「どこに住んだか」という選択の違いが、老後のゆとりに数千万円単位の差をもたらす現実。

 

「タワマンなんて……」と敬遠した層と、リスクを取って購入した層。その間に生まれた資産格差は、定年を境に、残酷なまでの「格差」として可視化され始めています。

 

[参考資料]

国土交通省『不動産価格指数(住宅)』

株式会社不動産経済研究所『首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年10月』