定年後の生活資金に不安を抱える人が多い昨今。しかし、現役時代における「マイホーム」という選択が、その後の人生を劇的に変えることがあります。かつては「やめておけ」と周囲から揶揄された物件が、20年の時を経て予想もしない資産価値を生み出すケースも珍しくありません。ある夫婦のケースをみていきます。
タワマンなんてやめておけ…20年前に「7,000万円・3LDKの湾岸タワマン」を購入した59歳サラリーマン、定年直前に「笑いが止まらない」ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

ただ、景色がきれいな家に住みたかっただけ

「通勤に便利なところに惹かれた、それ以外には特に何もないんですよ。当時は『埋立地なんて地盤が怖い』とか『修繕積立金で破綻する』なんて、散々言われましたし」

 

そう振り返るのは、都内勤務の高橋修一さん(59歳・仮名)。高橋さんは今から約20年前、まだ開発途中だった東京湾岸エリアのタワーマンションの一室を購入しました。20階の高層階、3LDKで広さは約75平米。購入価格は6,900万円でした。

 

当時40歳だった高橋さんは、課長職に昇進したばかり。妻と小学生の娘との3人暮らしで、それまでは千葉県内の賃貸マンションに住んでいました。

 

「毎日、満員電車の通勤がしんどくて。会社にすぐ隣とまではいかなくても、もう少し会社の近いところに住みたい――ただそれだけを考えていました。たまたま週末に家族で遊びに行ったとき、建設中のタワーマンションのモデルルームに冷やかしで入ったんです。そこでイメージですけど、部屋から見ることのできる眺望に、妻も私も一目惚れしてしまって」

 

しかし、周囲の反応は冷ややかでした。2000年代後半、湾岸エリアのタワーマンションは確かに増え始めていましたが、今ほどのブランド力はありません。

 

職場の同僚からは「地震が起こったらどうするんだ、崩れるぞ」「30年も経てばゴーストタウンになるぞ」「眺望なんて3日で飽きる」などと揶揄されたといいます。

 

「親からも反対されました。でも、私も妻も『毎日見る風景なら、素敵に越したことはない』と、半ば勢いで判子を押したんです。何かあった際、会社からも歩いて1時間ほどでたどり着ける距離もよかった。フルローンに近い状態でしたが、金利も低かったので『何とかなる』と思っていました」

 

それから20年弱。娘は就職して家を出ていき、高橋さんも定年退職目前。夫婦2人には広すぎる3LDK。管理費や修繕積立金も購入当初より上がり、毎月のランニングコストは駐車場代を含めて月8万円近くになっています。

 

「定年後は、妻の実家近くのコンパクトなマンションか、埼玉あたりに平屋でも建ててゆっくり暮らそうか、それともシニア向けマンションにでも……そんな住み替えも視野に話をしていました。それで先月、冗談半分で大手の不動産仲介業者に査定を依頼したんです」

 

数日後、営業担当者が持ってきた査定書を見て、高橋さんは眼鏡をずり落としそうになったといいます。提示された金額は、なんと「1億5,800万円」。購入価格の2倍以上にもなっていたのです。

 

「営業さんが言うには、『このエリアは学区の人気も高く、共用施設が充実しているこのマンションは指名買いが入るほどです』と。売却益から税金を引いても、手元に十分すぎる老後資金が残ります。場所にもよりますが、次の家を現金一括で買ってもお釣りがくる。あの日、同僚の反対を押し切って買った自分を褒めてやりたいですよ。本当にいいときに家を買いました」

 

高橋さんは現在、具体的な売却プランを練りながら、週末ごとに夫婦で「次の住まい」のカタログを眺めるのが楽しみだそうです。