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「通帳、見せてくれないか?」退職金の入金日に起きた異変
「正直、怒りというより、力が抜けました。30年以上、会社で必死に働いて、家のことは妻を信頼して任せてきたつもりでしたから」
千葉県在住の田中健一さん(60歳・仮名)。物流大手で勤続38年、定年退職を迎えたばかりだといいます。 事の発端は、退職金が振り込まれた当日。健一さんの口座には、予定通り約2,100万円の入金がありました。その夜、夕食の席で妻の洋子さん(58歳・仮名)に「通帳、記帳してきたか?」と尋ねたといいます。
「妻は『あ、うん……また今度でいいじゃない』と、明らかに歯切れが悪かったんです。普段なら『確認したわよ』で終わる話です。妙だなと思って、食後にリビングにあった妻のバッグから、家計管理用のポーチを取り出そうとしました」
洋子さんは慌てて止めようとしましたが、健一さんはそれを制してポーチを開けました。そこに入っていたのは、退職金が入った通帳ではなく、数枚のカードローン明細と、督促状の束。借入残高の合計は、約1,200万円にのぼりました。
「頭が真っ白になるというのは、ああいうことなんでしょうね。妻は贅沢をしている様子もなかったし、質素そのものでしたから。『これ、なんだ?』と聞いても、妻は下を向いて泣くだけでした」
問い詰めた末に判明した借金の原因は、洋子さんが独断で行っていた「FX(外国為替証拠金取引)」の失敗でした。10年ほど前、「老後資金が足りなくなる」というニュースや雑誌記事を読み、不安を覚えた洋子さんは、独学でFXを開始。最初は利益が出ていたものの、数年前の相場変動で大きな損失を出し、その穴埋めのためにカードローンに手を出したといいます。
「『あなたの退職金が入れば、一括で返すことができると思った』と言われました。私が汗水たらして働いた38年分の対価が、一瞬でマイナスの補填に消える。その事実を聞かされ、言葉が出ませんでした」
翌日、健一さんは退職金から1,200万円を引き出し、すべての借金を完済しました。手元に残ったのは、約900万円。当初、住宅ローンを完済しても十分に退職金は残ると思っていましたが……老後計画は白紙に戻りました。
「妻は『家族のためだった』と言いますが、相談もなく博打のようなことをされれば、それは裏切りと同じです。今はまだ、妻と以前のように話す気にはなれません。十分に反省をしてもらわないと」