平穏な日々が、ある日突然、音を立てて崩れていく――。仕事や家事に追われる現役世代にとって、予期せぬトラブルは精神的な動揺だけでなく、家計の基盤そのものを揺るがしかねません。しかし、忙しい日常のなかでは「まさか我が家に」という意識が先行し、具体的な危機管理は後回しにされがちです。ある夜の出来事を境に生活が一変した夫婦のケースをみていきます。
 「大切な話があるんだ…」金曜夜、単身赴任の45歳夫が緊急帰宅。浮気を疑い「修羅場」を覚悟した43歳妻…震える声で告げられた「衝撃の事実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「まさか女?」金曜夜のインターホン

「浮気だと思いました。金曜の夜、連絡もなく突然帰ってくるなんて、どう考えても緊急事態ですから」

 

そう語るのは、都内のメーカーでパート勤務をする高橋美咲さん(43歳・仮名)。半年前に大阪へ単身赴任したばかりの夫・浩二さん(45歳・仮名)が、ある週末の夜、突如として自宅に現れました。

 

「インターホンのモニターに夫が映った瞬間、血の気が引きました。いつもなら『これから帰る』とLINEが入るのに、その日は既読すらつかなくて。ドアを開けた夫はひどく深刻な顔をしていて、靴も揃えずにリビングに入ってきました」

 

重苦しい沈黙のなか、浩二さんはソファに深く沈み込み、「大切な話がある」と切り出しました。美咲さんの脳裏によぎったのは、女性の影です。単身赴任先での自由な時間、寂しさから魔が差したのか。あるいは本気の相手ができて、離婚を切り出されるのか。

 

美咲さんは最悪の事態を覚悟し、震える声を抑えながら「なに?」と問い詰めました。修羅場になることさえ想定していたといいます。しかし、夫の口から告げられたのは、予想をはるかに超える事実でした。

 

「『……ごめん。癌だった』って。カバンから大学病院の封筒を取り出したんです。最近、胃の調子が悪いから現地の病院に行っていたらしいんですが、検査の結果、胃がんだと判明して……」

 

一瞬にして、浮気を疑っていた自分が恥ずかしくなり、同時に夫を失うかもしれない恐怖が押し寄せました。美咲さんはその場で泣き崩れてしまったといいます。

 

「これまでは『なんで私ばかりワンオペなの』と単身赴任の不満を持っていましたが、夫が弱々しく『俺、まだ働けるかな……住宅ローン、どうしよう』と呟くのを見て、元気で働いてくれているだけで、どれだけありがたかったのかと」