住宅ローンを組みつつ、手元の現金を運用する――。一見賢いこの選択が、利上げ期には「現金不足」という致命傷を招くことがあります。実例をみていきましょう。
「パパ、久しぶりに焼肉行きたいな」…埼玉に引っ越してから外食が減った理由を知らない娘。〈4,500万円フルローン〉を組んだ40歳夫は「ママに聞いて」と言葉を濁し、妻が静かにキレた夜 (※写真はイメージです/PIXTA)

購入後に突きつけられた「金利上昇」の現実

契約から間もないある夜、レイコさんが深刻な顔でアキラさんに話しかけました。

 

「これをみて。日銀のニュース」

 

レイコさんのスマホには、金融政策決定会合の日程と、専門家の予測記事が表示されていました。

 

「日銀はマイナス金利を解除して、もう2回も利上げしてるのよ。次の12月18日・19日の会合でも利上げがあるかもしれないって書かれてる。来年も8回も会合があるの。そのたびに金利が上がるかもしれない」

 

アキラさんは反論しました。「でも、変動金利には『5年ルール』があるって担当者もいってたろ? すぐに返済額が増えるわけじゃない」

※5年ルール:金利が上昇しても、毎月の返済額そのものは5年間据え置かれるルール

 

レイコさんは首を横に振ります。「ネットで調べたら、返済額が変わらなくても、中身の利息の割合は増えるって書いてあった。金利が上がれば、毎月の返済額のほとんどが利息の支払いになって、元金がまったく減らないなんてことにもなりかねないの。そして5年後、猶予期間が終わった瞬間に、返済額が激増するのよ」

「現金がない」という恐怖

さらにレイコさんは、家計表を整理してみました。

 

2年後: 長女の高校入学

5年後: 5年ルール終了によるローン返済額アップ(予測)+火災保険更新

7年後: 長女の大学進学

 

「5年後、ローン返済額が上がったタイミングで、教育費のピークが始まるの。そのとき、手元の500万円は底をついているわ。そのときになって保険を解約しようとしても、元本割れしている可能性が高いのよ」

 

アキラさんは言葉を失いました。住宅ローンという変動金利の借金を背負いながら、手元の現金を流動性の低い保険に固定してしまった。もし金利が予想以上に上がれば、ローン返済で家計は破綻する。しかし、それを助けるはずの1,000万円は保険にロックされていて使えない――。

 

「自分のお金なのに、一番苦しいときに使えないなんて……」

 

アキラさんは、妻の指摘によって、金利上昇局面における「現金の重要性」を痛感することになったのです。

住宅購入時に「リスク」を重ねない

アキラさんの失敗は、金利上昇トレンドが明確な時期に、リスクを分散させるどころか「重ねて」しまったことにあります。変動金利は、金利上昇リスクを家計が負う契約です。そこに、資産運用のリスク、さらに保険特有のすぐに現金化できないリスクまで重ねてしまいました。

 

これからの時代、変動金利型ローンの利用者は、猶予期間後の返済額のアップがどのくらいになるかを事前にシミュレーションし、家計への負担を理解しておく必要があります。そして、金利上昇に耐えうるだけの手元資金を残しておきましょう。

 

「金利の怖さと将来の生活全体を見据えて判断すべきだった」

 

アキラさん夫婦はいま、外食は控え、日常的な節約に努めつつ、レイコさんが扶養を外れて働く時間を増やし、繰上げ返済のための資金を作ろうと必死です。