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父「欲しいものは通販で買う。お前の世話にはならん」
「父は昔から『新しいもの好き』でした。スマホもタブレットも使いこなし、引退後は株価チェックが日課。だからこそ、私は油断していたんです」
都内在住の会社員、長谷川美佐子さん(50歳・仮名)。実家で1人暮らしをする父・修一さん(78歳・仮名)は、大手企業で管理職をしていた元エリートです。現在、年金は月20万円、金融資産は4,000万円超。「金はある、頭も回る」が自慢で、娘が高齢者のひとり暮らしについて不安を口にすると、「今はネットで水でも飯でも届く時代だ。心配無用、施設になんて入るか!」と一蹴されたといいます。
実際、修一さんは毎日のように通販サイトで買い物をしていたそう。美佐子さんが電話をするたび、「昨日はマッサージ機を買った」「今日は北海道からカニを取り寄せた」などと、いつも上機嫌でした。美佐子さんは「お金を使って経済を回してくれているなら、認知症予防にもなるし安心ね」と、修一さんのネット通販好きを好意的に見ていたのです。
しかし、その便利すぎる生活に異変が……。きっかけは、宅配業者からの異例の電話でした。
「あのお宅、もう荷物を置く場所がないんです。玄関先まで埋まっていてインターホンにも出てくれない」
美佐子さんが遠路はるばる実家に駆けつけると、そこは異様な光景でした。玄関ドアが半分しか開きません。隙間から体をねじ込むと、廊下の天井まで積み上げられた通販の段ボールの壁が、奥まで続いていました。
「ゴミじゃないんです。全部、新品の商品なんです。最新の空気清浄機、ロボット掃除機、高級羽毛布団、そして大量の缶詰やレトルト食品……。父は、届いた荷物を開けることができなくなっていたんです」
認知症の進行により、修一さんは「注文ボタンを押す」ことはできても、「箱を開封して片付ける」「説明書を読んで設置する」という遂行機能が失われていました。それでも、不安を埋めるように注文だけは止められない……そんな顛末でした。美佐子さんが段ボールの迷路をかき分けると、リビングのわずかな隙間で、修一さんはただうずくまっていたそうです。